富士山噴火の備えは、イメージすることから
企業は従業員の安全と事業継続にどう備えるべきか

2021年に富士山のハザードマップが17年ぶりに改定され、2025年には内閣府が「富士山の大規模噴火と広域降灰の影響」の動画を公表しました。富士山噴火と首都圏の降灰についてニュースで目にする機会は増えている一方、日本では、江戸時代の宝永噴火以降、首都圏に大量の火山灰をもたらすような大規模噴火を経験していません。富士山噴火では何が起こり、何に備えればよいのか、具体的に思い描ける人は多くないのではないでしょうか。
今回のインタビューでは、富士山噴火で首都圏に何が起こるのか、住む場所や働き方によって変わる避難行動、そして火山灰の中で暮らすために本当に必要な備えについて、山梨県富士山科学研究所で火山地質学・火山防災を専門とし、富士山火山防災対策協議会の火山専門家も務める吉本充宏様にお話を伺いました。
目次
予測が難しい噴火の規模とタイミング
宝永噴火以前の2000年間、様々なタイプの噴火を繰り返してきた富士山

丸山:2021年3月に富士山ハザードマップが17年ぶりに改定され、想定火口範囲や溶岩流の最大噴出量などが見直され、多数のシミュレーションが実施されました。こうした情報をニュースで目にする機会が増えたとはいえ、首都圏に住む読者にとって富士山噴火はまだ遠い災害です。まず、富士山ではどのような噴火が起こりうるのか、全体像から教えてください。
吉本 様:
ニュースでは「宝永噴火」と呼ばれる大規模な噴火が取り上げられますが、実は富士山の噴火がすべて爆発的な噴火だった、というわけではありません。富士山は約10万年前から活動を始め、その長い活動史の中で噴火の様式も変化してきました。古い時代には大規模で爆発的な噴火を繰り返し、関東地方まで火山灰を飛ばしています。関東ローム層にも、富士山から飛んできた火山噴出物が数多く含まれています。
一方、最近数千年間には、山腹から溶岩を流す噴火も数多く起きています。そして最後に起きた1707年の宝永噴火は、大量の火山灰を広域に降らせる爆発的な噴火でした。そのため、富士山の噴火は爆発的であるというイメージが定着しました。
ですので、次の噴火がどういう噴火になるのか、私たちにも予測はできないのです。ただ、関東地方にまで影響を及ぼす噴火は、やはり宝永噴火のような爆発的噴火でしょう。
丸山:宝永噴火のような爆発的な噴火が起きた際、関東地方にはどのように火山灰が降るのでしょうか。
吉本 様:
よく「〇〇には何ミリの火山灰が降るのですか?」とご質問いただくのですが、こうした問いには答えられないというのが実情です。噴火の様式、規模、継続時間によって、火山灰の厚さは変わります。個々の噴火で状況が異なるので、予測はかなり難しいのです。
そのため、基本的には過去の噴火と降灰の事例に従って規模感をシミュレーションすることになります。噴火の規模を表す指標の一つに、噴出物の量や噴煙の高さなどをもとにした火山爆発指数(VEI)があります。0から8までの段階で表され、噴出物量はおおむね一段階上がるごとに10倍程度になります。宝永噴火はVEI5に相当し、近世以降の日本で発生した噴火の中でも最大級の噴火でした。
そして重要なのは、現代社会になってからの日本では、首都圏や都市圏でこれほど大きな噴火を経験したことがないという点です。比較的大きな噴火だった2011年の新燃岳(霧島連山)の噴火でも、周辺地域に火山灰による影響が生じましたが、宝永噴火はそれを大きく上回る規模でした。
丸山:溶岩流、噴石、火山灰のほかに、富士山で警戒すべき現象はありますか。
吉本 様:
富士山では、火砕流と融雪型火山泥流(ゆうせつがたかざんでいりゅう)も山麓で問題になります。火砕流は、火山灰や岩石が火山ガスと一緒に高速で斜面を流れ下る現象で、時速100キロを超えることもあります。大きな噴石も非常に高速で飛来します。いずれも、火山の近くでは大きな脅威です。
火砕流が積雪期に起こると、数百度にもなる高温の火砕流が斜面を流れ下り、到達した場所の雪を溶かします。その融雪水が火山灰や土砂などを巻き込み、泥流となって流れ下る現象が融雪型火山泥流です。時速60キロ程度を超えることがあり、溶岩より速く、火砕流より遠くまで流れる場合もあります。
わずかな降灰でも交通と物流が停滞
火山灰が降ると、首都圏に何が起こるのか

丸山:富士山が噴火すると、首都圏ではどのようなことが起こりうるのでしょうか。
吉本 様:
大規模な爆発的噴火では、火山灰は上空1万メートル以上まで吹き上がり、偏西風に乗って関東地方まで届くことがあります。降る場所や量は、風向・風速、噴煙の高さなどによって大きく変わります。宝永噴火の際には、関東の広い範囲に火山灰が飛んだという記録が残っています。
もう一つ重要なのは、火山の近くでは粒が粗く、遠くへ行くほど細かくなるという性質です。神奈川県の西部では小石のようなものが降ることがあり、富士山の近くではさらに大きい、こぶし大のものも降ってくる可能性があります。東京まで届くものは、主に細かな火山灰になります。火山灰は、直ちに生命に危険を及ぼすものではありませんが、生活や社会活動には大きな影響を与えます。
まず、社会インフラの中でも、鉄道はごくわずかな降灰から影響を受けます。微量の降灰でも地上路線の運行が停止する可能性があります。また、道路では乾燥時は10センチ以上、降雨時は3センチ以上の降灰でも二輪駆動車が通行不能となる恐れがあります。スタッドレスタイヤやタイヤチェーンを装着していても、火山灰の上では十分な効果は期待できません。一方、四輪駆動車であれば多少は走行できるものの、安全に走行できるとは限りません。さらに、降灰中は視界も悪くなり、速度の低下や渋滞が発生するため、車での避難には大きなリスクが伴います。
また、道路上で動けなくなる車が増えると、緊急車両や道路の復旧作業にあたる車両の通行が妨げられ、復旧活動の遅れにもつながります。自分自身の安全を守るだけでなく、被災地域の早期復旧のためにも、車での避難はできる限り控え、自治体などから発信される避難情報や交通規制に従って行動することが重要です。
火山灰がパラパラと降り始めた段階で、人の流れも物流もかなり停滞します。電車が全面的に止まり、大勢の帰宅困難者が発生することも十分にあり得るでしょう。
丸山:交通以外のインフラ、電気や水道にはどのような影響が出るのでしょうか。
吉本 様:
まず重要なのは電気への影響です。火力発電所は空気を取り込んで燃料を燃やしタービンを回しますから、火山灰でフィルターが目詰まりすると、出力低下や運転停止につながる可能性があります。送電線網では、降灰と雨が重なると、「碍子(がいし)」と呼ばれる絶縁部分に付着した火山灰が湿って電気を通しやすくなり、絶縁性能が低下します。その結果、漏れ電流や放電が生じ、保護装置が作動して送電が停止し、停電につながる可能性があります。その他にも、湿った火山灰が付着した樹木が倒れて電線を切ることもあり得ます。
こうした被害は、復旧作業ができなければ戻りません。自家発電を持つ施設も、どの程度運転を継続できるかは燃料の備蓄量に左右されます。
電気がないとポンプが動きませんから、水道にも影響します。また浄水場の原水に火山灰が混入すると水質が悪化し、浄水処理に支障が生じる可能性があります。一方で、ほこりっぽくなって皆さんが水洗いをするようになり需要は増え、需給のバランスが崩れるでしょう。さらに下水では、車に積もった火山灰を洗い流したり、雨で流れたりして、排水溝や下水管が目詰まりし、内水氾濫のようなことが起こる可能性もあります。
住む場所・職場・状況に応じたタイムラインを
企業は従業員の安全と事業継続にどう備えるべきか

丸山:吉本様は以前、「一辺倒の防災ではだめだ。地域に合わせた、住民が納得する防災活動が必要」とお話しされていました。富士山噴火時のタイムラインは、どのように考えるべきなのでしょうか。
吉本 様:
防災計画は市町村や協議会が作っていますが、実際には同じ市内でも、火山に近い人と遠い人とでは逃げるタイミングがまったく違います。ですから、自分がどこに住んでいて、職場がどこにあって、どのタイミングで逃げるのかといった自分自身の避難計画を作っていくことが重要です。
タイムラインは重要ですが、火山の場合、タイムラインは一つではないと考えておく必要があります。水害であれば予報が出て、「このタイミングで逃げないと間に合わない」という時間が決まった中で、家の中をスタート地点に考えるのが基本です。しかし火山の場合、それぞれの人が、その時いる場所から対応を始めなければならない可能性があります。
自宅と職場のどちらが山に近いのか、お子さんがどこの学校に通っているのか。基本となるタイムラインを一つ作り、そこから派生型を作っていくイメージです。複雑にはなりますが、いくつかのパターンに分けて考えておくことが重要でしょう。
丸山:従業員の安全確保や事業継続について、企業はどのように判断すべきでしょうか。
吉本 様:
職場が火山に近いのであれば、早い段階で在宅ワークに移行してもらい、会社にいる人を最小限に減らす努力が大事です。会社も自社の事業計画だけではなく、従業員の配置を含めて、帰宅させる基準などの仕組み全体を考える必要があります。
鉄道会社がどの段階で計画運休を判断するかについては、今後さらに具体化されていくと思います。企業側も、鉄道の運行情報や降灰予測などを踏まえ、どの段階でBCP(事業継続計画)を発動し、従業員を帰宅させるのかをあらかじめ決めておく必要があります。
一方で、病院やデータセンターのように、業態によっては事業を継続せざるを得ないところもあります。こうした施設は移動せず、建物の中に滞在したまま対応することになります。宝永噴火は16日間続きましたので、そこまで見据えた対策が必要です。
空調・冷却設備の問題も、実は大きいと思っています。特にデータセンターや病院などは、施設の機能を維持するために冷却設備を継続して運転する必要があります。大量の火山灰が降ると、冷却塔や外気を取り込む空調設備などに火山灰が入り込み、設備の性能が低下したり、運転に支障が生じたりする可能性があります。単純に設備をカバーすればよいわけではなく、空気の流れを妨げれば設備そのものが運転できません。
火山灰から設備を守りながら建物の機能を維持することは簡単ではないため、BCPでは、空調・冷却設備に障害が生じた場合の対応もあらかじめ検討しておくことが重要です。
備蓄は地震と同じ、まず1週間程度を目安に
花粉症対策を参考に、火山灰を持ち込まない工夫

丸山:宝永噴火では降灰が16日間続いたとされ、首都圏では「2週間から1ヶ月分の備蓄が必要」とも言われています。富士山噴火と地震の備えは、どのような違いがあるのでしょうか。
吉本 様:
2週間分をストックするというのは、やはり現実的ではないと思います。基本的には地震と同じように、まず1週間程度を目安に備蓄していただくのが重要ではないかと、私は考えています。広域降灰では、むやみに遠くへ避難するのではなく、可能な限り自宅などにとどまって生活を継続することが基本になります。そのためにも備蓄が重要です。
宝永噴火は16日間続きましたが、16日間ずっと同じように火山灰が降り続けたわけではありません。噴火の強さは時間とともに変化しています。その間に、復旧作業と並行して拠点となる場所に物資を流していくことが必要になります。そのためにも、物資が運べる状態をできるだけ早く確保することが重要です。
備蓄はまず1週間程度を目安として考え、その間に社会全体で復旧を早めるという理解のもとに計画を立てることが大切だと思います。これに加えて、従業員の滞在を想定した食料・飲料水・非常用トイレ、非常用電源や燃料、物資の補給方法など、自社の事業継続に必要な備えへつなげると実用性が高まります。
丸山:防塵マスクやゴーグルなど、火山防災ならではの備蓄品は必要でしょうか。
吉本 様:
私自身は、火山灰専用の特殊なものをたくさん用意する必要はないと思っています。ただ、火山灰を吸い込まないためのマスクや、目を守るための眼鏡・ゴーグルは役に立ちます。
普段使っているマスクを使いつつ、火山灰が入らないように工夫する方が有効です。目の保護には花粉症用のゴーグルやスノーボード用のゴーグルなども活用できます。特別な備えを増やすこと以上に、「何から身を守る必要があるのか」を知識として蓄えていただくことが重要です。
丸山:自宅での過ごし方で気をつけることはありますか。窓の目張りや空気清浄機、洗濯物など、読者が気になる点だと思います。
吉本 様:
火山灰には非常に細かな粒子も含まれますので、できるだけ屋内に入れないことが重要です。降灰中は窓やドアを閉め、屋内への火山灰の侵入を減らします。空気清浄機を使用する場合も、フィルターの目詰まりなどに注意する必要があります。
注意が必要なのは、外に出た時に付着した火山灰を屋内に持ち込まないことです。これは花粉症の対策とよく似ていて、花粉がつきにくい上着を着る、玄関先で払ってから入る、肌の露出を控えるといった対策が有効になります。火山灰には鋭い形をした火山ガラスや岩石の細かな粒子が含まれますから、体内に入れないに越したことはなく、帰宅後の手洗い・うがいも衛生的にはよいと思います。また、火山灰が降っている時は洗濯物を室内に干すことになるでしょう。
室外機も、地面に積もった火山灰を吸い込みにくくするため、地上から少し高い位置に設置することが対策の一つになると思います。降ってくる火山灰だけでなく、一度地面に積もった火山灰が巻き上げられて、室外機に入り込むことも考えられるからです。吸排気を妨げないようにしながら、上から降る火山灰をできるだけ入りにくくする工夫も必要でしょう。室外機を高い位置に設置するという考え方は、水害対策とも共通しています。
丸山:コンタクトレンズを使っている人や、お子さん・高齢者が特に注意すべきことはありますか。
吉本 様:
まず目の保護が重要です。先ほどお話ししたように、火山灰の粒子は鋭い形をしているため、目に入ると角膜を傷つけることがあります。コンタクトレンズをしていると、強い刺激や痛みを感じることがあります。外に出る時は目を保護し、皮膚の弱い方は皮膚に直接触れないようにすることも大切です。
もう一つ注意が必要なのは呼吸器です。噴火時には火山灰だけでなく、二酸化硫黄などの火山ガスが風に運ばれてくることがあります。二酸化硫黄は目や喉、気道を刺激し、咳や息苦しさなどを引き起こすことがあります。特に喘息など呼吸器に疾患のある方は影響を受けやすいため、注意が必要です。火山ガスの影響がある場合には、防塵マスクだけでは十分な対策になりませんので、自治体や気象庁などから出される情報を確認し、できるだけ曝露を避けることが重要です。
健康な方であれば、短時間の降灰ですぐに重い健康被害につながる可能性は高くありませんが、火山灰は目や喉、呼吸器を刺激します。できるだけ吸い込まないようにすることが基本です。
信頼すべきは、内閣府・気象庁の公式情報
正しい行動のために正しい情報を
丸山:指示を待つのではなく、まずは自分で判断するために、どのような情報源を頼りにすればよいのでしょうか。
吉本 様:
内閣府と気象庁の公式の情報を確認するようにしてください。火山そのものの情報は気象庁、防災対策は内閣府で取りまとめられていて、今日お話しした内容の多くも、内閣府の「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」などに出ている情報です。
SNSを利用する場合も、内閣府や気象庁、自治体などの公式アカウントからの情報を確認してください。大事なのは発信元が公式かどうかです。最近の海外ではまったく違う火山の映像が今起きている噴火だと誤解されるような投稿が拡散したり、AIで作られたフェイク動画が多く出回ったりと、一般の方の発信には誤情報が含まれる可能性があります。
また、「専門家」といってもいろいろな方がいますので、そこも注意していただきたいと思います。私たちは富士山火山防災対策協議会の火山専門家という公式の立場で、協議会や政府の機関を通して発言するよう心がけています。
世の中には火山学者も地震学者も数多くいますが、地震学と火山学では専門とする対象や知見が異なります。また、火山の専門家であっても、すべての火山を同じように詳しく研究しているわけではありません。大手メディアも基本的には気象庁などの情報をもとにしていますが、誰が、どのような根拠に基づいて発信している情報なのかを確認することが重要です。
丸山:最後に、この記事を読んだ方がまずやってみるべきことと、読者へのメッセージをお願いします。
吉本 様:
まず、富士山噴火を想像できるかどうかにかかっていると思います。最近は東京都や内閣府もシミュレーション動画を使って啓発していますので、そうした映像資料を見て、「火山灰が降るとこういうふうになるのか」というイメージを持っていただくのが第一歩です。イメージがない中で対策をしろと言われても、何もできません。政府や公的機関の資料、実際の噴火で起こったことの映像を見て、「何が起こるのだろう」という知識を蓄えてもらうこと。それがまず一歩だと思います。
そして、火山からの距離によって対応は違うのだということが、なかなか理解されにくいところです。ここは私たちとしても情報発信していきたいと思っています。富士山だからといって同じ対応を取ればよいわけではありませんし、火山ごとにも違います。そうしたことも含めて、まずは知識をしっかりと得ていただくこと。そして、噴火のリスクをまだ知らない周りの人に伝えることも、今からできる一つのアクションだと思います。

〈参考情報〉
- 内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」
https://www.bousai.go.jp/kazan/kouhaitaisaku/index.html - 内閣府 広報動画「富士山の大規模噴火と広域降灰の影響」https://www.bousai.go.jp/kazan/eizoshiryo/tozansha_shisetsu.html
- 気象庁「火山活動の状況(富士山)」
https://www.data.jma.go.jp/vois/data/report/activity_info/314.html - 山梨県富士山科学研究所
https://www.mfri.pref.yamanashi.jp
〈取材にご協力いただいた方〉
山梨県富士山科学研究所 研究部長 吉本 充宏(よしもと・みつひろ)様
北海道大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。東京大学地震研究所助手、北海道大学大学院理学研究院助教を経て、2014年の山梨県富士山科学研究所の発足とともに着任。富士山火山防災研究センター長などを経て、2023年より現職。専門は火山地質学・火山防災。富士山火山防災対策協議会の火山専門家を務めるほか、山梨大学地域防災・マネジメント研究センター客員教授、都留文科大学客員教授を兼務。
※インタビュアー:丸山 茜(防災士・災害対策士) 当サイトの運営元であるプラス株式会社ジョインテックスカンパニーにて防災・BCP商材、サービスの企画/推進、「危機対策のキホン」カタログ、オウンドメディアサイト「もっとキキタイマガジン」の企画/監修