児童の防災意識を高め、町全体へ共助の輪を
内海小学校が取り組む防災教育とは

創立は明治7年、山と海に囲まれた伝統ある宮崎市立内海小学校(以下、内海小学校)。2024年12月現在、全校で19名と小さなこの小学校では、予告なしの避難訓練を毎月実施し、地元の宮崎大学や京都大学で防災研究に取り組む専門家を招いた講習を実施するなどの防災教育に力を入れています。
今回の取材では、内海小学校が防災教育に力を入れている背景や具体的な防災教育、そして地域の方々との連携について、同校で校長先生を務める岩切 靖代様、防災主任である福留 洋子様と対談させていただきました。
目次
山と海に囲まれた宮崎市内海が抱える災害のリスクとは

丸山:内海小学校がある宮崎市内海は、どのような特徴がある地域なのでしょうか。
岩切 様:
内海は宮崎市街の南に20キロほど離れた、日南市とのほぼ境目に位置しています。三方を山、一方を海に囲まれた地形で、内海港と内海川を中心としたわずかな平地に住宅地が広がっている町です。町には内海駅という日南線の鉄道の無人駅が一駅だけあり、国道220号といった自動車用道路とともに宮崎市街と隣町をつなぐ重要なインフラになっています。
丸山:内海が抱える災害リスクについて教えてください。
岩切 様:
国土交通省が公開しているハザードマップを参考にしますと、主に土砂災害、高潮、津波といった災害リスクがとても高い地域だと言えます。

実際に2021年の台風14号では、大雨で道路が冠水し、土砂崩れで道もふさがれて国道が通行できなくなりました。目の前は太平洋のため、大きな地震が起きれば土砂災害に加えて津波による被害は避けられないでしょう。実際に内海の北の地域である木花地域では、1662年の外所地震(とんところじしん)による津波で一部の陸地が海に沈んだという記録が残っています。
自然に囲まれ
町全体の災害に対する意識が高いことが防災教育の背景に

丸山:内海小学校はどのような特徴があるのでしょうか。
福留 様:
2024年現在、全校で19名と小規模な学校です。地域の方々との関係がとても深いことが特徴で、クラブ活動や遠足などの学校行事に加え、日々の学校生活にもご協力いただいています。
たとえば、地域見守り隊の方々が児童の登校時間に合わせて横断歩道などに立たれ、児童の交通安全を毎日見守ってくださっています。当校恒例のお別れ遠足では、地域の方々といっしょにグラウンドゴルフをしたり、クラブ活動の時間に特産品である明日葉を使った料理を教えていただいたりと、とてもありがたく感じています。
丸山:内海小学校では普段、どのような災害対策をされているのでしょうか。
福留 様:
防災教育に力を入れはじめたのは、私が内海小学校に着任するよりも前からです。海抜が低く、山々に囲まれた内海の地形と災害リスクを考えると、防災教育に力を入れはじめたのは自然なことでした。2021年の水害と土砂崩れだけでなく、過去には地震や津波の被害が大きかった地域ですので、町全体でも災害に対する意識は高いように感じます。
また日々の備えとして、すべての児童と教職員が災害時の備蓄品として防災リュックとヘルメットを1人ひとつずつ常備しています。防災リュックの中には水や軍手、レインコート、防災アルミブランケットなど、PTA予算で購入されたものが入っています。以前は防災頭巾だったのですが、3年前にヘルメットに更新されておりまして、今後も防災リュックの中身は更新し続けていく予定です。
予告なしの避難訓練を毎月実施
アプリを活用して避難経路を考える

丸山:内海小学校ではどのような避難訓練を実施されていますか。
福留 様:
当校では毎月一度、事前通告なしの避難訓練を実施しています。地震と津波を想定した避難訓練で、まずは一次避難として机の下に隠れ、二次避難で全児童が集合して避難所に向かうという流れです。いざという時、何も考えずに身を守る行動に移せること、災害時に不安でパニックに陥らず、冷静に行動できることを目的としています。時には、事前予告なしの訓練も行います。
また教室からの避難だけでなく、それぞれの登校時間中に災害が発生した際の避難訓練も実施しました。登校班ごとに分かれ、それぞれの判断で避難所に向かうように指導しました。避難先でも「もしここでさらに大きな地震が起きたとき、どうしますか」「高台へ避難するには、どこを通ればよいでしょうか」といった質問をすることで、児童にイメージトレーニングさせることを意識させました。
丸山:避難訓練を毎月実施されているのはすごいですね!避難訓練で工夫されていることはありますか?
福留 様:
内海で特に心配している災害が津波です。津波の恐れがある場合は高台へ避難することになりますが、その高台への避難経路は複数存在し、その中には地震で倒壊する恐れがあるブロック塀があったり、海に近い道だったりと、避難経路にはふさわしくない道もあります。
そこで児童自らが正しい避難経路を判断できるように「逃げトレ」というアプリを活用して避難訓練を実施したこともあります。そのときはアプリ開発者の方をお招きし、アプリを活用して最適な避難経路をまとめた地域の防災マップを防災教育の一環で作成しました。実際に作成したマップを使って実際に避難訓練を行い、しっかり災害時にも活用できることを確認しています。
外部の専門家から正しい防災の知識を身につけ
自分たちで考えていく

丸山:防災教育においてどのような考え方を意識していますか?
福留 様:
私たち教員が一方的に教えるのではなく、児童自らが考えて行動することを大事にしています。災害は学校の教室や他の誰かといるときだけ起こるわけではありませんから、児童一人ひとりが状況を冷静に観察し、どう行動に移すべきか考える力と行動力を養えるような防災教育を意識しています。
岩切 様:
私たち教員は防災の専門家ではありませんから、外部から専門家の方々をお呼びし、正しい知識を身につけることも大事にしています。当校の防災教育の企画には、宮崎大学工学部の川崎典子准教授や地域防災コーディネーターの谷口さんを中心にお力添えいただいており、学校と地域、そして行政が一体となった防災に取り組むことを目的として意見交換や講演を実施してきました。また、京都大学防災研究所、宮崎観測所の山下裕亮助教授にも、地震の規模やマグニチュードの考え方などの専門的な地震の知識をご教授いただいたこともあります。
今日も総合の時間の4時間を使い、防災教育の座学を川崎先生に、実技訓練を谷口さんにご協力いただいて防災実技訓練を実施しました。避難生活を送るために必要な備蓄品について児童が自ら考えた上で、簡易トイレや段ボールベッドの組み立て方や、間仕切りの設置方法をレクチャーいただきました。
正しい知識をもとに児童同士が議論し、みんなで最適解を考えて共有することに加え、体験を交えた防災教育を取り入れることで、より実践的かつ行動に繋げられる取り組みになるよう心掛けています。
児童から保護者、そして地域の方々へ
小学校から広がる共助の意識

丸山:地域の方々とは、防災でどのような連携をされているのでしょうか。
岩切 様:
内海はご高齢の方が多くお住まいということもあり、「地域の方に助けていただく」という考え方ではなく、一緒に防災に取り組んでいくという姿勢を内海小学校では大事にしています。
地域の防災訓練にも内海小学校の児童が参加したり、地域の方々の避難の様子から児童たちができること、どのようなお困りごとがあるのかといった意見交換をしたりしていきたいと考えます。また、敬老会の催しに児童と教職員が一緒に参加し、内海の特徴と災害リスク、それに対する対策を一緒に考えていけるといいと思います。
今日の防災実技訓練では、地域防災コーディネーターさんから「高齢化が進んでいる地域において、子どもたちが主体的に避難所を開設できる知識をもっていることは心強い」と仰っていただけたことで児童たちに「共助」の考え方が意識づけられ、また自信にも繋がったのではないかと思っています。
丸山:地域の方々と防災で連携する際に、どのようなポイントが重要になるのでしょうか。
岩切 様:
まずは地域ごとの特性や災害リスクを一緒に考え、その認識を共有することです。防災のあり方を地域の方々と児童、教職員が一緒に考えていく過程で互いをよく知ることができ、こうした交流の積み重ねが災害時の共助につながるのではないでしょうか。まずは学校の防災教育で自助の知識と意識を高め、そこから地域の方々や保護者へと共助の意識を広げていくことが重要だと思います。
「天災は忘れた頃にやってくる」
まずは自助の知識と行動力を

丸山:今後の展望をお聞かせください。
岩切 様:
防災訓練は積み重ねが大事です。今後も毎月の避難訓練は継続していき、あらゆる事態を想定することで児童自らが判断し、自分の命を守るための自助の知識と行動力を身に着けられるよう、教職員一同サポートしていきます。
また、内海小学校から児童の保護者へ、そして地域の方々へ防災意識を広げていく活動にも力を入れていきたいですね。小学校から情報を発信していくだけでなく、専門家の方々や地域防災コーディネーターさんのお力を借りながら、共助の輪を広げていきます。
丸山:読者へのメッセージをお願いします。
福留 様:
防災のあるべき形は、地域やそこに住む方々によって変わってきます。地形や町によって避難計画は違いますし、想定される災害も違います。だからこそ、まずは自分たちの学校や周辺環境と地域に住む方々を知ることが、児童の安全を守る防災、ひいては地域防災力強化に繋がる第一歩になるのだと思います。 「天災は忘れた頃にやってくる」との言葉もあるように、危機意識を薄れさせないためにも定期的な防災訓練だけでなく、避難計画の見直しやアップデートを継続していくこと、そのためにしっかり時間を割いていくことが大事だと思います。
※インタビュアー:丸山 茜(防災士)
当サイトの運営元であるプラス株式会社ジョインテックスカンパニーにて防災・BCP商材、サービスの企画/推進、「危機対策のキホン」カタログ、オウンドメディアサイト「もっとキキタイマガジン」の企画/監修