企業が取り組むべき万引き対策とは?効果的な防止策と組織的な取り組みを解説

万引きは小売業にとって看過できない経営課題です。警察庁の統計によれば、万引きの年間認知件数は約10万件に上り、小売業界全体では年間3,000億円から4,000億円もの損失が発生していると推計されています。こうした被害は店舗の収益を直接圧迫するだけでなく、従業員の士気低下や顧客対応への悪影響など、事業全体に波及します。
本記事では、万引き被害の実態から基本的な防止策、組織的な取り組み、投資対効果を考えた対策の進め方まで解説していきます。
目次
万引き被害の実態と企業経営への影響
万引きは店舗の利益を直接奪うだけでなく、従業員の負担増や店舗イメージの低下など、多方面に影響を及ぼします。まずは現状と企業へのダメージを正しく理解することが重要です。
小売業界における万引き被害の現状
警察庁が公表する犯罪統計によると、2024年の万引き認知件数は9万8,292件で、前年比5.5%増加しています。万引きによる被害総額は正確な把握が困難ですが、全国万引犯罪防止機構の推計では小売業界全体で年間3,000億円から4,000億円に達するとされています。
業態別に見ると、コンビニエンスストア、ドラッグストア、スーパーマーケットでの被害が特に多く報告されています。これらの店舗では客単価が比較的低い一方で、来店客数が多く、商品の種類も豊富なため、万引きのターゲットになりやすい傾向があります。
近年は特に、高齢者による万引きの増加が挙げられます。65歳以上の万引き事犯者の割合は年々上昇しており、孤独感や経済的困窮、認知機能の低下などが背景にあると指摘されています。また、外国人グループによる組織的な窃盗も深刻化しており、医薬品や化粧品などを大量に盗んで海外に転売する事例が後を絶ちません。
万引きが企業経営に与える影響
万引きによる直接的な損失は、単なる商品原価だけにとどまりません。盗まれた商品の仕入れコストに加え、在庫管理や棚卸作業の手間、防犯対策にかかる費用など、間接的なコストも発生します。
また、万引きが頻発する店舗では、従業員が常に警戒を強いられることで精神的な負担が増し、本来の接客業務に集中できなくなります。これは従業員の士気低下やサービス品質の低下につながり、結果として顧客満足度にも悪影響を及ぼします。
さらに、過度な防犯対策は善良な顧客に不快感を与える可能性もあります。店内での過剰な監視や頻繁な声かけは、顧客の買い物体験を損ねる要因となり、リピート率の低下を招くリスクがあります。
万引きされやすい店舗の特徴
- 店内の死角が多いレイアウト
高い棚や什器によって視界が遮られ、従業員の目が届きにくいエリアが生まれると、犯人にとって隠れやすく、犯行しやすい環境になります。
- 従業員の配置・人数が不適切
従業員がレジ業務に集中して店内巡回が不足していたり、混雑時に人手が足りず監視の目が行き届かなくなったりすると、店舗全体の監視力が下がり、万引きのリスクが高まります。
- 商品の整理整頓が不十分
陳列が乱れて欠品に気づきにくい状態が続くと、万引きが発覚しにくくなり、さらに「管理が甘い」という印象を与えることで犯行を誘発する要因にもなります。
- 防犯設備の不足
防犯カメラや警告ステッカーが設置されていなかったり、防犯意識の低さが外観から伝わったりすると、「ここなら見つからない」という安心感を犯人に与えてしまいます。
万引きされやすい店舗には、見えにくい場所が多い・監視が不十分・整理整頓ができていない・防犯対策が弱いといった共通点があります。これらの要因が重なると、万引き犯に「狙いやすい店」と見なされてしまいます。まずは店内の見通しや従業員配置、防犯設備の見直しなど、基本的な対策を徹底することが重要です。
万引き対策の基本的な取り組み
効果的な万引き防止には、設備面と運用面の両面から対策を講じる必要があります。ここでは、店舗が取り組める基本施策を整理して紹介します。
ハード面での対策
- 防犯カメラの設置
防犯カメラは、犯行を抑止する心理的効果と、証拠を記録する機能の二つを兼ね備えています。出入口やレジ周辺、高額商品の棚、死角になりやすいエリアなど、重点ポイントに配置することが重要です。近年ではAIによる不審行動の自動検知も可能になり、リアルタイムでの対処がしやすくなっています。
- 防犯ゲートと防犯タグの導入
商品に取り付けた防犯タグが会計前に出口を通過するとアラームが鳴る仕組みで、アパレルや化粧品、医薬品など、持ち運びしやすく高額になりやすい商品の保護に適しています。
- 店舗レイアウトの改善
視界を遮らないように陳列棚の高さを低くしたり、死角に防犯ミラーを設置したりすることで、従業員が店内を広く見渡せるようになります。また、高額商品をレジの近くや従業員の目が届く位置に配置することで監視効果が高まります。
- 防犯ポスターやPOPの掲示
「万引きは犯罪です」「防犯カメラ作動中」といったメッセージを目立つ場所に掲示することで、心理的な抑止力を高められます。
ソフト面での対策
- 従業員による積極的な声かけ
「いらっしゃいませ」「何かお探しですか」といった声かけは、サービス向上と同時に、犯人に“見られている”という心理的圧力を与えます。特に不審な行動が見られる顧客には、自然な接客を装いながら声をかけることで犯行を思いとどまらせる効果があります。
- 商品の整理整頓と在庫確認
陳列が常に整っていると商品の欠品に気づきやすく、万引きの早期発見につながります。加えて、整然とした売り場は「管理が行き届いている」という印象を与え、犯行を心理的に抑止します。
- 店内放送による防犯アナウンス
「店内は防犯カメラで監視しています」といった定期的な放送は、防犯意識の高さを顧客に示し、万引き抑止に有効です。
セルフレジ・無人店舗での万引き対策
セルフレジでは、商品をスキャンしないまま通過したり、高額品を低額品として登録したりするなどの不正が起こりやすくなります。こうした行為を防ぐには、AI搭載カメラでスキャン動作や商品の個数を自動確認したり、スタッフが定期的に巡回したりする体制が効果的です。
一方、無人店舗では入店時の本人確認や、店内全体を監視する高度なカメラシステムの導入が必要になります。また、決済をキャッシュレスに限定することで不正のハードルを上げられます。さらに、セルフレジや無人店舗を運営するうえでは、スタッフに不正の兆候を見抜く観察力や、怪しい行動を見つけた際の適切な対応方法を習得させる研修も欠かせません。
組織として取り組む万引き防止策
現場任せの対策では、店舗ごとにばらつきが生じ、十分な効果が得られません。企業として統一的なルールと教育を整備し、組織全体で防犯体制を強化することが不可欠です。
全社的なガイドラインの整備
複数店舗を運営している場合、対応が店舗ごとにばらつかないよう、全社で共有できるガイドラインを整えておくことが大切です。このガイドラインには、次の内容を明記します。
- 万引き対策の基本方針
(例:従業員の安全を最優先とする、過度な追跡は行わない など)
- 各店舗で実施すべき具体的な対策
(例:防犯カメラの設置場所、防犯タグの運用方法、整理整頓の基準 など)
- 万引き発生時の対応手順
(例:「声かけ → 警察への通報 → 本部への報告」の流れ)
- 報告体制・連絡フロー
(例:誰が、いつ、どの内容を、どこへ報告するのか)
特に、万引き犯への対応では従業員の安全を最優先とする姿勢を明確にし、無理な追跡や実力行使は行わないといったルールを決めておく必要があります。
さらに、高額商品の管理方法、防犯カメラの設置基準、防犯タグの取り扱い方針なども統一することで、効果的でムラのない防犯体制が実現できます。
従業員教育と意識向上
現場で働く従業員の防犯意識を高めることは、万引き対策の効果を左右する重要なポイントです。
定期的な研修では、万引き犯がとりがちな行動パターンや実際の事例を紹介し、「周囲を頻繁に見回す」「商品をかごに入れず持ち歩く」「大きなバッグを持ち歩いている」といった不審な特徴を理解してもらいます。これにより、異変に気づきやすくなります。
また、声かけの方法や発生時の対応は、ロールプレイングを通して実践的に学びます。こうした練習を重ねることで、いざという時にも落ち着いて対応できるようになります。
さらに、不審人物の特徴や万引きの手口を素早く共有できる仕組みを整えておくと、店舗全体で注意を払う体制が強化され、より効果的な予防につながります。
データに基づく効果測定と改善
万引き対策を継続的に強化するには、データを活用した現状把握と改善が欠かせません。各店舗のロス率(不明在庫の割合)を定期的に確認し、推移を比較することで問題のある店舗や時間帯、商品カテゴリを把握できます。傾向が見えれば、人的配置の見直しや陳列場所の変更、防犯タグの追加といった具体的な対策につなげられます。
このように、PDCAサイクルを回しながら効果を検証し、成果のあった取り組みを他店舗へ共有することで、組織全体のロス削減が実現します。
万引き発生時の適切な対応
万引き発生時の対応をあらかじめ整理しておくことは、リスクを最小限に抑えるために重要です。まずは従業員の安全を最優先にし、追跡や強引な制止は避けます。商品を持ったまま退店しようとする顧客には声をかけ、それでも立ち去る場合は無理をせず警察へ通報します。
発生後は本部への報告と防犯カメラ映像の保存を迅速に行い、今後の対策強化に役立てます。また、常習犯の情報を社内で共有する仕組みを整えると効果的ですが、個人情報の扱いには十分な配慮が必要です。
投資対効果を考えた万引き対策の進め方
万引き対策にはさまざまな費用がかかるため、予算に合わせて優先順位をつけて進めることが重要です。ここでは、予算規模別に検討できる対策と、投資効果の考え方を紹介します。
予算規模別の対策優先順位
予算に応じて取り組むべき対策は異なります。費用帯ごとの優先順位を見ていきましょう。
■低予算で取り組める対策
費用をほとんどかけずに始められ、一定の効果が見込める施策です。
- 防犯ポスターやPOPの掲示
- 従業員の声かけ強化
- 売り場の整理整頓の徹底
■中規模予算で実施できる対策
初期投資は必要ですが、効果が持続しやすい施策です。
- 防犯カメラの設置
- 防犯ゲートや防犯タグシステムの導入
■大規模予算で検討できる対策
高額ですが、人手を補う仕組みとして長期的にメリットがあります。
- AI搭載の高度な監視システム
- 顔認証システム など
まずは、費用をかけずに始められる基本対策を優先し、そのうえでロス状況に応じて防犯カメラや防犯ゲートなどの中規模投資へ段階的に取り組む方法が現実的です。さらに、必要性が高い場合には、AI監視などの大規模投資を検討することで、無理なく効果的な万引き対策を進められます。
万引き対策におけるROI(投資対効果)の考え方
万引き対策に投資する際は、他の設備投資と同じく、導入コストに対してどれだけの効果(ロス削減や環境改善)が得られるかを評価することが重要です。一般的なROI(投資対効果)の考え方を用いると、投資回収の目安を立てやすくなります。
例:年間ロス500万円の店舗の場合
防犯設備に200万円を投資し、ロスが半減すれば、初年度で投資額を回収できます。翌年以降は年間250万円の削減効果が継続するため、長期的には大きな効果が期待できます。
さらに、万引き対策には数値化しにくいメリットも多くあります。
- 従業員の安心感・働きやすさ
- 安全な店舗環境を提供することで顧客満足度が向上
- 店舗の信用向上
このように、ROIは単なる費用比較だけでなく、店舗価値の向上も含めて総合的に評価することが重要です。
組織的な取り組みで万引き被害を最小化する
万引き対策は、店舗の収益を守るだけでなく、従業員の働きやすさや顧客体験の向上にもつながる重要な取り組みです。本記事で紹介した対策を参考に、自社店舗の課題を洗い出し、予算や優先順位に応じて段階的に対策を強化していきましょう。現場任せにせず、本社主導で統一的なガイドラインを整備し、継続的に効果を検証していくことが、持続的なロス削減の鍵となります。ジョインテックスカンパニーでは、防災・防犯・感染対策用品を中心に約1,500アイテムを掲載した「危機対策のキホン」カタログをご用意しております。企業の防災対策のために、ぜひご活用ください。
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