持ち運べる電子レンジ「WILLCOOK」が変える防災のカタチ。
世界が注目する技術とプロダクト開発へのあくなき挑戦
布が発熱するという前代未聞の特許技術を武器に、持ち運べるレンジバッグ「WILLCOOK」の開発、販売を手掛ける繊維ベンチャー企業の株式会社WILLTEX。最新技術が集まるアメリカの展示会「CES 2024」の「CES Innovation Awards」では家電部門で最優秀賞を受賞するなど、世界中から注目を集めています。
さらに日本国内では、「フェーズフリー」の考えに合致した事業やアイデアを表彰する「PHASE FREE AWARD(フェーズフリー アワード)」、アイデア部門でオーディエンス賞を受賞。日常シーンではもちろん、災害時にも活躍する多用途のプロダクトとして展開しています。
今回は株式会社WILLTEXの社長であり、繊維のプロである木村さんと、「WILLCOOK」などの商品企画、開発を手掛けるCTOの上田さんに、過去の体験から生まれた商品開発にかける想いとあくなき挑戦ストーリー、「フェーズフリー」に対する考えについて、お話を伺いました。
目次
人にとって身近な存在である繊維が創る、豊かな未来像
丸山:「WILLTEX」という社名には、どのような思いを込めているのでしょうか。
木村 さん:
私が好きな「will」という言葉は、人の「意思」を指す単語であると同時に、「未来」の意味も含まれています。そして布地を意味する「textile」から「tex」を取り、「WILLTEX」という造語を社名としました。つまり、「志を持って未来のテキスタイルを創っていこう」という思いを込めているのです。
弊社では、繊維とエレクトロニクスを組み合わせたファイバーイノベーションによって、豊かな未来を作っていくことを企業理念として謳っています。繊維は人に近い場所にある、身近な存在です。人にとって身近な存在であるからこそ、今まで人類が体感したことのないような技術を繊維に盛り込むことで、世界の未来をよりよい方向に変えることができると信じています。
丸山:電子レンジバッグ「WILLCOOK」は、どのようなきっかけから開発が始まったのでしょうか。
上田 さん:
私はもともと、代表の木村と同じ繊維商社で15年ほど勤務したのち、前職である電子基板を取り扱う会社で働いていました。そこである時、展示会への出展に向けて繊維と電子基板を組み合わせた新しいプロダクトを開発することになり、そこで生まれたアイデアが「発熱する布」だったのです。
この「発熱する布」は、私自身が当時「今すぐ欲しいな」と心から思っていたものでした。私には野球少年の息子がいまして、保護者は休日の練習や試合のたびに夏場の炎天下、冬場のいてつく寒さの中、グラウンドで一日中、彼らを見守らなければならないのです。
そこで当時一番辛かったのは、冬場の寒さでした。「どうすればこの寒さを乗り越えられるのか」とひたすらに夢想していたところ、「繊維自体が発熱すればよいのでは」というアイデアを思いつきました。寒さを乗り越えたいという欲求に加え、息子に温かいお弁当を食べさせたいという欲求も相まり、そこから発熱する繊維づくりを模索することになりました。
そこから工業用ヒーターを製造しているメーカーさんや、世界初の繊維自体が発熱する布製ヒーティングシステムを開発していた株式会社三機コンシスさん、そして以前から発熱する繊維として導電性繊維の研究開発をしていた木村が会社の設立とプロダクト開発に協力することでようやく生まれた商品が、軽くて持ち運べるカバン型のポータブルレンジバッグ「WILLCOOK(ウィルクック)」です。
10分で100度、2時間は50度を保温。技術のキモは「断熱材」
丸山:「WILLCOOK」の開発にあたって、どのようなこだわりがあったのでしょうか。
上田 さん:
一番のこだわりは、開発の原点である「発熱する布」というコンセプトからブレないこと、つまり布感を損なわないプロダクトにすることです。市場には、いわゆる“お弁当ウォーマー”と呼ばれる、電熱線が内蔵された箱型のお弁当バッグがすでに売られているのですが、これらは最大でも60度程度までしか温度が上がらない構造になっています。これではお弁当を加熱するには不十分です。
それに対して「WILLCOOK」は、10分で100度まで加熱できること、そして50度で2時間保温できる構造を目指すことになりました。その際にポイントとなったのが「断熱材」です。世の中のさまざまな断熱材の性能を試験しながら、「WILLCOOK」に組み込んだ際に布感を損なわない「薄さ」を重視していたのですが、断熱性とのバランス調整がなかなか難しく……。
根気よく素材を探す中で出会えたのが、とあるメーカーさんが自社オリジナルで使用していた圧縮綿です。これを層状に「WILLCOOK」へ組み合わせることで、高温かつ放熱しすぎず、布感を損なわないプロダクトを実現することができました。
当初はフェーズフリーを意識していなかった「WILLCOOK」
丸山:「WILLCOOK」は第2回フェーズフリーアワード2022のアイデア部門でオーディエンス賞を受賞されていますよね。
フェーズフリーは身の回りにあるモノやサービスを日常だけでなく、非日常にも役立つようデザインしようという考え方です。フェーズフリーアワードに出展するにあたって、どのようなこだわりがあったのでしょうか。
上田 さん:
「WILLCOOK」はもともと冬の野球グラウンドの寒さをなんとか乗り越えたいとの思いから企画がスタートしたという経緯もあり、アウトドアのアクティブなシーンで問題なく使用できるような、男性向けガジェットに近いデザインにしています。そのため、普段から持っていても格好よいこと、恥ずかしくないことを意識しました。
実は「フェーズフリー」という言葉を知ったのはデザインを決めていく途中のことで、「フェーズフリー」を意識してデザインを決めた訳ではありません。ある時、開発チームの女性メンバーが「最近『フェーズフリー』という考え方が話題だけど、私たちの『WILLCOOK』はまさに『フェーズフリー』なプロダクトなのでは?」というアイデアを出してくれたのです。
その頃、ちょうど「フェーズフリー」の考えに沿ったビジネスやアイデアを審査し、表彰する「フェーズフリーアワード」が始まったこともあり、出展を決めました。「WILLCOOK」の災害時における活用方法や、備蓄食材で温かい食事ができるレシピなどは、「WILLCOOK」の公式Webサイト内に掲載しています。
「いつも」はより良く、「もしも」を安心に ポータブル電子レンジバッグWILLCOOKで備えない防災
丸山:同じ「フェーズフリー」を謳うプロダクトでも、「防災」という視点から企画、開発されたプロダクトは、どうしても災害時の使途にウエイトが置かれ、日常時での生活の質の向上という側面が薄れがちだと感じています。
しかし「WILLCOOK」は「日常生活」や「アウトドア」という視点から企画、開発されており、後から「防災にもつながるのでは」とのアイデアが生まれました。このあたりの経緯が、一般のオーディエンスからの投票数で決まるオーディエンス賞を受賞された大きな要因だったのではないでしょうか。
阪神淡路大震災を経験。温かい食事で思わず泣いてしまった理由とは
丸山:災害時にライフラインが止まっても温かい食事をとれるのは心強いなと感じています。このようなアイデアの背景には何かきっかけがあったのでしょうか。
木村 さん:
実は阪神淡路大震災が起きた1995年当時、私は神戸市からほど近い西宮市に住んでいました。そして当時の職場が神戸にあったため、まさにど真ん中で大震災を経験したのです。
大震災で当時一番辛かったのが、多くの同僚が助かるなかで特に仲の良かった先輩と後輩のご家族が亡くなってしまったことでした。学校の体育館に遺体を引き取りに行ったのですが、至るところで皆さん泣いていて……。何もかも想像を超えたことばかりで、ずっと重い気分だったのですが、そこに追い打ちをかけたのが暗い夜に食べる冷たい食事でした。
水や食糧といった救援物資自体は早い段階で到着していたのですが、数日間は冷たい食事が続いたのです。そのときの精神状態は、今でもあまり思い出したくないですね……。
発災からおよそ2週間後に行政と自衛隊による支援を受けられるようになり、そこでようやく炊き出しも始まりました。2週間ぶりに口にした、温かい食事は今でも忘れられません。当時はなぜか分からなかったのですが、食べ始めるともう涙があふれて止まらないんです。
今思い返せば、腹の底から「自分は生きているんだ」と実感できた安堵、「これからなんとかしなきゃ」という責任感、そして親しかった人が亡くなったという悲しさが混ざり合って溢れた涙だったんだな、と。温かい食事は、心の底にまで響くものなんですよ。
そこからまた繊維業界でずっと仕事を続けてきて、今こうして温かい食事をいつどこでも提供できるプロダクトに携わっているのは、どこか縁を感じます。
災害時に持っててよかった、
便利だと感じてもらえるプロダクトを目指して
木村 さん:
私たちはまだまだ防災業界をよく存じ上げていません。ですので、まずは多くの企業の方々に「WILLCOOK」をご紹介するだけでなく、防災業界のトレンドやプロダクトの傾向などをぜひ教えていただきたいと思います。
丸山:今日初めて「WILLCOOK」を触らせていただきましたが、本当に布自体が熱を持つんだなとびっくりしました。この素晴らしい体験を、直接「WILLCOOK」を触ることができない消費者へいかに届けていくかも難しいポイントですね。
今後はぜひ、弊社のチャネルから「WILLCOOK」の魅力と実力をより多くのお客様へご紹介させていただき、世の中に広がるお手伝いをさせていただきたいと思います。
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<取材にご協力いただいたお客様>
〈取材にご協力いただいた方〉
木村 浩(きむら・ひろし)さん
アメリカの芯地メーカー、日本の紡績メーカー、繊維商社などを経る。各企業の収益改善と経営企画に携わる。繊維業界を練り渡るスペシャリスト。宅地建物取引士の資格。
上田 彩花(うえだ・あやか)さん
神奈川県生まれ。繊維商社に入社。B型マイペース。繊維商社時代、事務職から営業職に抜擢される。社内の営業研修を理解できず、担当アパレルのショップに日夜通い、密かに、生地の風合い・シルエット・着用感を肌で覚えた。営業先では、デザイナー・パタンナーからの体当たり、足引っ掛けなどの嫌がらせをうけながらも翌年にトップシェアを獲得した強者。
※インタビュアー:丸山 茜(防災士)
当サイトの運営元であるプラス株式会社ジョインテックスカンパニーにて防災・BCP商材、サービスの企画/推進、「危機対策のキホン」カタログ、オウンドメディアサイト「もっとキキタイマガジン」の企画/監修
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