災害化する熱中症リスクと、
企業が果たすべき義務
「アイストラスト」が提案する熱中症対策とは

気候変動の影響から日本の夏は猛暑が日常化し、もはや災害レベルのリスクとして捉えられるようになりました。2025年6月1日には事業主に対する熱中症対策の義務化を定めた労働安全衛生法が改正・施行されました。
こうした社会課題を背景に開発されたのが、電力を使わずに冷却効果を実現する特殊低温保冷剤使用・超冷感ウェア「アイストラスト」です。過酷な職場環境に対応しつつ、多様な用途に活用できる本製品は、繊維ベンチャー企業の株式会社WILLTEXと、ユニフォームや作業着の企画製造に強みを持つニッキー株式会社の技術と熱意によって生まれました。今回は株式会社WILLTEXの代表取締役である上田さんと、ニッキー株式会社で執行役員を務める榊原さんに、商品開発に対する想いとこだわり、そして企業の熱中症対策のあるべき姿について、お話を伺いました。
目次
災害化する猛暑
法改正で義務化された熱中症対策と企業に求められる対応とは

丸山:近年は気候変動の影響で、日本の夏は長期化し、猛暑日も珍しくなくなりました。企業の熱中症対策について、その必要性をどのように捉えていますか?
上田 様:
ここ数年の夏は本当に異常な暑さですよね。2024年に念願だった甲子園の観戦に行ったのですが、想像を超える暑さでした。日陰がまったくない球場で直射日光を浴び続け、まさに焼かれるようでした。
その時ふと脳裏に浮かんだのが、特に屋外で働かれている方々が日常的にさらされている暑さは、私がいま感じている暑さよりももっと過酷なのだろうということです。実際に弊社が製品を提供しているお客さまでも、あらゆる熱中症対策を講じているにも関わらず現場の現状に追いつけない、という声を数多くいただきます。「従業員が快適に働ける環境をつくること」が企業の責任としてより強く求められる昨今、熱中症対策はBCP(事業継続計画)の一環としても重要視されるようになっていると実感しています。
丸山:私たちは熱中症を「気象災害」として捉えています。事実、厚生労働省の発表によると、昨今の熱中症による死亡者数は1,000名を超える年が増えており、278名の死亡者を出した、2016年の熊本地震などの自然災害と比べても深刻です。現状では、企業は「熱中症対策」を独立した取り組みとして扱いがちですが、今後はBCPの枠組みにも含めて考えていくべき課題だと考えています。

丸山:2025年6月1日からは、労働安全衛生法の改正によって職場の熱中症対策が事業者に義務付けられました。しかし実際に企業の担当者と話してみると、意外と現場と総務部門との間で温度差があることに気づかされました。本部組織が現場の実情を把握していないケースが多く、現場から声が上がらないとなかなか対策が進まないという課題が見えてきたのです。
また、企業規模ごとの温度差も感じています。大手企業では、安全配慮義務やコンプライアンス意識の高さから、熱中症対策が比較的早く進んでいる印象です。専任部署や予算の有無も影響しており、社内体制の整備という面でも優位性があります。その一方で、中小企業ではすでに取り組んでいる企業ももちろんありますが、その対応スピードについては差が出ていると感じています。
上田 様:
現場と本部組織の間で熱中症対策の認識がズレている具体的な例として、ファン付きウェアが挙げられます。多くの現場でファン付きウェアが着用されるようになりましたが、外気温が35度を超えてしまうと外の熱風を取り込んでしまい、逆効果になる場合があるのです。場合によっては、むしろ熱中症リスクを高めてしまうという主張もあり、ファン付きウェアの使用を再検討している企業もあると聞きます。
そうした中で私たちが提案している「アイストラスト」は、保冷剤とベストをセットにしたもので、それを着用し、その上からファン付きウェアを装着することで、冷気を循環させて高い冷却効果を得るという方法です。実際に弊社の新しい商品はファン付きウェアのメーカー様にも採用いただいており、「ファンと保冷のハイブリッド」が今後の熱中症対策のスタンダードになると期待しています。
熱中症対策の新機軸
特殊低温保冷剤使用・超冷感ウェア「アイストラスト」に
込められた工夫と商品づくり

丸山:年々高まる熱中症対策の需要に応える形で開発された「アイストラスト」の特徴について教えてください。
上田 様:
「アイストラスト」は、熱中症対策を目的としたウェアラブル冷却アイテムで、作業現場や屋外イベントなどでの使用を想定して開発されました。保冷剤を身体に密着させて効率よく冷却する構造により、暑熱環境下でも快適な作業を可能にします。
最大の特長は、一般的な保冷剤と比べて圧倒的に凍結時間が短く、冷却効果が長時間持続する点です。これにより、暑さの厳しい現場でも繰り返し使っていただける仕様になっています。 また、保冷剤以外の暑さ対策としては半導体素子で作られるペルチェ素子もよく耳にします。ペルチェ素子は小型化でき、軽量というメリットがあります。しかしその反面、電力を消費するため、バッテリーを繋がなければならないという構造上の制約があります。さらに鉄工所や造船所のような防爆エリアがある現場では、バッテリー付きの製品は使えません。「アイストラスト」は電力を必要とせず、安全性と緊急冷却性能を両立している点で優位だと考えています。
榊原 様:
「アイストラスト」の製造・販売は、私たちニッキー株式会社が担当しました。これまでユニフォームや作業着の企画・開発を数多く手掛けており、実用性と快適性を両立させることに強みがある会社です。
今回の「アイストラスト」についても、快適性の観点から通気性を高めるためにメッシュ素材を採用しました。実用性としてはフリーサイズとして商品を企画し、マジックテープでサイズ調整可能な設計にしています。これにより、体格を問わず誰でも同じ製品を使用できる汎用性の高さを実現しました。
試作品ができた時期には、実際に私も着用しています。猛暑の中でゴルフをした際に「アイストラスト」を装着してラウンドしたのですが、驚いたのが保冷剤の持続時間です。1つの保冷剤でハーフラウンド(約2時間半)をまわる間、冷却効果を感じつつ快適にプレーすることができ、パフォーマンス向上にも貢献したのではと感じています。
上田 様:
加えて、「アイストラスト」のカスタマイズ性もポイントです。たとえば保冷時間を延ばしたい、名入れをしたい、現場に合わせたウェアカラー・材質に変更したいといった要望にも柔軟に対応可能です。ご要望をヒアリングさせていただき、開発サイドやニッキー社と連携しながら、既製品を超える商品づくりを進めていきます。
求めていたのは、ともに挑戦できるパートナー
布と技術、そしてアパレルの強みを活かすために

丸山:WILLTEX社とニッキー社による「アイストラスト」の開発プロジェクトは、どのような経緯でスタートしたのでしょうか。
上田 様:
きっかけは、ラスベガスで開催されたCESへの出展でした。ジェトロ(日本貿易振興機構)さん経由で、保冷剤分野の技術を持つアトム技研さんとつながり、熱中症対策を目的とした新たな商品開発の構想が浮上しました。そこで重要だったのが、信頼できるアパレルパートナーの存在です。複数候補の中で真っ先に頭に浮かんだのが、ニッキーの榊原さんでした。
榊原 様:
私自身がWILLTEXさんと初めてお会いしたのは、コロナ前に開催された展示会がきっかけです。当時、電熱線ではなく生地自体が発熱するという「WILLCOOK®」の技術に強く興味を持ち、お声がけしました。
丸山:数あるアパレルメーカーの中で、なぜニッキー社をパートナーに選ばれたのでしょうか。
上田 様:
我々は「技術を売ること」よりも、「信頼できる人と挑戦すること」を重視しています。繊維メーカーの技術をスポット的に活用するにとどまり、十分に活かしきれないケースも業界内では見受けられますが、ニッキーの榊原さんは判断がとても早く、現場に根ざした動きをされる稀有な存在でした。「この人となら失敗してももう一度挑戦できる」と、そう思えたのです。
また、アパレル業界はブランディングや流通の設計が非常に複雑であり、誰と組むかによって商品の価値が大きく変わります。アパレル業界を熟知し、実績があり、そして我々の技術と想いを形にしていただけるパートナーとして、ニッキー社と組むことを選びました。
制約が多い現場からオフィスまで幅広く対応
ユーザーの声を反映し、実用的な機能を実現

丸山:「アイストラスト」は、どのような業界や職種におすすめできるでしょうか。
上田 様:
先ほど挙げた防爆エリアがある現場や電源が確保できない現場など、ファン付きウェアが着用できない場所におすすめできます。また、食品工場のように温度が厳密に管理され、風を循環させられない空間の作業には、「アイストラスト」単体が最適ですね。
ただ、「アイストラスト」とファン付きウェアを組み合わせて着用いただくのが、最適な冷却効果が得られる方法です。そのため、すでにファン付きウェアを導入している企業にはぜひ検討いただければと思います。
また最近では「オフィス内のパーソナルな温度調整ツール」としてもお問い合わせいただいております。光熱費の高騰が問題となっている昨今、全館空調を控えても個人の快適性を保てるという点で、コスト削減と快適性を両立できるはずです。
丸山:すでに導入されているケースがあれば教えてください。
上田 様:
弊社とパートナーシップを組んでいる首都高メンテナンス神奈川株式会社様には、すでに道路上のメンテナンス作業の現場でご活用いただいています。遮蔽物がほとんどなく、熱の照り返しが強いアスファルトという熱中症リスクがとても高い環境で、「アイストラスト」の導入効果を高く評価いただいています。さらには継続的なフィードバックをいただき、製品の改善にも役立てています。
榊原 様:
昨年の試験販売では「冷却時間をもっと延ばしてほしい」という声が多く、2025年に生産した製品はそれらの要望に応えるため、エアバリア構造を導入して保冷効果を改良しました。さらに、0度面・5度面を選べる仕様や、インナーバッグで温度調整も可能です。保冷剤には安全な食品添加物を使用しているので、食品の冷却にも活用でき、耐久性も改善しています。
上田 様:
弊社が過去に発売した、発熱する布を使用した「WILLCOOK®」とは、「災害対策に活用できる」という共通点があります。熱中症そのものが災害となりつつありますが、夏の暑い時期に災害が発生した際に、電源が限られたシチュエーションでも暑さから身を守る必要があります。特に高齢者向けの熱中症対策グッズとして、介護分野への展開も今後期待しています。
より安全、快適な熱中症対策ウェアを目指して
温度の課題に取り組み、多様なニーズに応えたい

丸山:今後の展望についてお聞かせください。
上田 様:
現在展開している「アイストラスト」に対して、実際の使用現場から多くのフィードバックをいただいており、今後もより使いやすく、より安全性が高い製品として改善を継続していきたいと考えています。「ファイバーイノベーションで豊かな未来へ導くヒーローになる」という理念のもと、人の役に立てるものづくりを軸に据えて事業を進めていきます。
AIやICTといった技術が発達しても、「温度」はとてもパーソナルな感覚であり、個人差が大きい領域です。汗をかきやすい人、冷えやすい人、感じ方は人それぞれだからこそ、多様なニーズに応えるため、真摯に課題解決に取り組んでいきます。
榊原 様:
弊社としても、アパレルメーカーだからこそできる課題解決、さらなる商品展開に取り組んでいきます。そして熱中症対策の分野では、子供向けやペット向けなどの展開も検討していきたいですね。ジェルタイプが主流の保冷剤市場において、新たなスタンダードとなるように「アイストラスト」を広めていきたいです。
丸山:温度をテーマとした製品を販売していく難しさのひとつに、体感してようやくプロダクトの価値が伝わるという点があります。弊社はEC通販の展開にプラスして、全国の販売パートナー様を通じた「人ありモデル」を強みとしています。体感いただくことが重要なプロダクトである「アイストラスト」をより多くのお客様に手に取っていただける機会を今後も増やし、温度で社会課題を解決するお手伝いをしていきたいと思います。
「アイストラスト」の商品特徴については、以下の動画でご紹介しております。ぜひ併せてご覧ください。
合わせて、株式会社WILLTEXのWILLCOOKについて、開発秘話をお伺いした際の記事を以下よりお読みいただけます。
株式会社WILLTEX
代表取締役社長 上田 彩花(うえだ・あやか)様
ニッキー株式会社
大阪本社 執行役員 榊原 正喜(さかきばら・まさき)様
※インタビュアー:丸山 茜(防災士)
当サイトの運営元であるプラス株式会社ジョインテックスカンパニーにて防災・BCP商材、サービスの企画/推進、「危機対策のキホン」カタログ、オウンドメディアサイト「もっとキキタイマガジン」の企画/監修