BCP対策で取得できるISO認証とは?メリットや手順、注意点を解説

近年、自然災害やサイバー攻撃、パンデミックなど、企業活動を脅かすリスクはますます多様化・複雑化しています。こうした環境変化を背景に、多くの企業が事業継続計画(BCP)の策定に着手していますが、いまや計画の有無だけでなく、その実効性が取引先や投資家から厳しく問われるようになってきました。そこで注目されているのがISO認証です。BCP対策の実効性を客観的に示す手段として、ISOの取得を検討する企業も増えています。
本記事では、BCP関連のISO認証であるISO 22301について、取得メリット、具体的な手順、そして注意すべきポイントまで、実務担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
目次
ISO認証とBCPの基礎知識
まず、ISO認証とBCPについて、基本的な内容を整理してみましょう。
ISO認証とは
ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)は、製品、サービス、組織運営などに関する国際的な基準(規格)を策定する機関です。この規格に基づいたマネジメント体制や業務プロセスを、第三者機関が審査・認証する仕組みが「ISO認証」です。
ISO認証を取得することで、企業は国際的に信頼される体制を構築していることを、社内外に対して客観的に証明できます。これは単なる書類上の認証ではなく、実際の業務運営における品質の証明となります。
近年、サプライチェーン全体でのリスク管理が重視されるなか、取引先選定の重要な判断材料としてISO認証が活用されています。また、顧客や投資家にとっても、企業の信頼性を測る指標として認知度が高まっています。
BCPとは
BCP(事業継続計画)は、企業が緊急事態に直面した際の対応計画です。自然災害、システム障害、感染症拡大などの予期せぬ事態でも、重要な事業を継続し、早期復旧を図ることを目的としています。
緊急時でも顧客へのサービス提供を継続し、売上損失や復旧コストを最小限に抑えることで、経営の安定とステークホルダーからの信頼維持を図ることをを目的としています。
2011年の東日本大震災を機に、その重要性が広く認識されるようになり、さらに新型コロナウイルスの感染拡大やサイバー攻撃の増加といった環境変化を受け、多くの企業がBCPの策定や見直しに取り組むようになっています。
BCP対策について詳しくは、「BCP対策とは?基礎知識から策定手順、運用のポイントまでをわかりやすく解説」で解説しています。
BCP対策で取得できるISO認証とは
BCP対策を実施することで取得可能なISO認証が「ISO 22301」です。 ISO 22301は、事業継続マネジメントシステム(BCMS)の国際規格です。災害や事故などの緊急事態において、重要業務を中断させずに継続・早期復旧させる仕組みの構築・運用・改善に関する基準が定められています。
ここで重要なのは、単純なBCP策定だけでは認証を取得できないという点です。策定したBCPを組織全体で継続的に運用し、改善していく体制が必要になります。
つまり、BCPを「計画書」として作成するだけでなく、BCM(事業継続マネジメント)として組織に定着させることが、ISO 22301認証取得の前提となります。
BCM について詳しくは、「BCMとは?BCPや防災との違いと取り組み方について解説」で解説しています。
ISO 22301を取得するメリット
ISO 22301を取得することで、企業は次のようなメリットを得られます。
企業の信頼性・競争力の向上
第三者認証機関による客観的な審査を通じて、企業のBCP体制が国際基準に適合していることを対外的に示すことができます。これにより、取引先や顧客からの信頼を得やすくなるほか、入札や契約時における競争優位の確保にもつながります。
また、ISO 22301の取得は、企業のブランド価値や信頼性の向上にも寄与します。投資家やステークホルダーからの評価を高める効果が期待できるほか、ESG経営の一環として、持続可能な企業姿勢をアピールする手段としても有効です。
組織の危機管理能力の強化
ISO 22301では、PDCAサイクルに基づいた継続的な改善が求められるため、組織全体の危機管理体制を体系的かつ段階的に強化することができます。また、定期的な教育・訓練や演習の実施が要求事項として含まれており、従業員一人ひとりの危機管理意識が高まることで、実効性のあるBCPの運用体制が構築されます。
リスク対策コストの最適化
ISO 22301の取得プロセスを通じて、リスクの洗い出しと優先順位付けが体系的に行われます。これにより、限られた予算を最も重要なリスク対策に集中でき、費用対効果の高い危機管理体制を構築できます。
また、事前の備えにより緊急時の被害を最小限に抑え、復旧コストの削減効果も期待できます。
ISO 22301取得の手順
ISO 22301の取得には、第三者機関によって自社の事業継続マネジメント体制を客観的に評価・認証してもらう必要があります。通常は数か月〜半年程度の準備期間と、一定の費用がかかります。
日本では情報マネジメントシステム認定センター(ISMS-AC)が認定した認証機関が、ISO 22301の認証サービスを提供しています。
参考 情報マネジメントシステム認定センター(ISMS-AC)
ここでは、ISO 22301の認証取得に向けた基本的な流れを、フェーズごとにわかりやすくご紹介します。
取得準備フェーズ
まず自社の現在のBCP体制を把握し、ISO 22301の要求事項との差異を洗い出します。その後、信頼できる認証機関を選定して相談・見積もりを依頼し、経営層の承認を得ます。承認後はプロジェクトチームを編成し、具体的な予算とスケジュールを策定します。
文書化・体制構築フェーズ
ISO22301の要求事項に基づき、BCMを実現するためのBCMS文書を作成します。これには、事業継続方針やBCP、緊急時対応手順などが含まれます。並行して従業員への教育・研修を実施し、内部監査体制を整備します。文書が完成したら認証機関による内容確認を受け、問題がなければ正式に審査の申し込みを行います。
審査・認証取得フェーズ
まず登録審査第一段階(文書審査)を受けて、作成したBCMS文書の適合性を確認します。改善点があれば修正した後、登録審査第二段階(実地審査)を受けて、実際の運用状況を審査員に確認してもらいます。
両方の審査に合格すれば登録証が発行されます。その後は年1回の定期審査と3年ごとの更新審査により認証を維持します。
ISO22301認証を取得する際の注意点
ISO 22301の認証取得にあたっては、スムーズな導入と長期的な運用を見据えた計画が重要です。以下の点に特に注意が必要です。
文書整備だけでは認証取得できない
認証取得では、事業継続方針や対応手順などの文書整備が求められますが、それだけでは不十分です。実際の運用を想定した訓練や演習の実施、経営層の積極的な関与、現場の理解促進など、組織全体で実効性のある体制を構築することが審査では重視されます。
認証取得後の維持・改善が必要
認証取得がゴールではありません。年1回の定期審査と3年ごとの更新審査に対応するため、内部監査の継続実施、従業員教育の定期更新、文書の見直しなど、持続可能な運用体制の構築が不可欠です。認証取得は事業継続能力を継続的に向上させるためのスタートポイントと位置付けるべきです。
ISO認証の取得はBCP対策強化の大きな一歩に
ISO 22301の取得は、単なる認証取得にとどまらず、企業の事業継続力を根本から高めるための有効な手段です。適切な準備と専門的なサポートを活用すれば、より実効性の高いBCP体制を構築し、持続可能な経営基盤の確立につなげることができます。まずは現状の把握から始め、段階的かつ着実に取り組みを進めていくことが、将来のリスクに備える第一歩となるでしょう。
ジョインテックスカンパニーでは、BCP対策における備蓄・管理の課題解決を、さまざまな角度からサポートするソリューションを提供しています。BCP対策の実施にお悩みの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。お問い合せ – キキタイマガジン