机上訓練とは?図上訓練との違いやメリット、手順、実施のポイントも解説

地震や台風、システム障害といった緊急事態への備えとして、会議室で行う「机上訓練」という訓練手法が注目されています。しかし、「机上訓練って実際に何をするのか?」「図上訓練との違いは?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、机上訓練の概要から実施手順、効果的に行うポイントまでわかりやすく解説します。
目次
机上訓練とは
机上訓練の概要
机上訓練は、災害や事故などの緊急事態を想定したシナリオをもとに、関係者が会議室などに集まり、さまざまなシチュエーションへの対応を検討・議論する形式の訓練です。
実際の行動を伴わず、ホワイトボードやBCP(事業継続計画)、防災マニュアルなどを使いながら、主に「思考」と「対話」によって対応の妥当性を確認していきます。
訓練は時系列に沿って進行し、参加者は各自の役割に基づいて意思決定や連携について話し合います。
準備や設備の負担が比較的軽いため、BCP導入初期のステップとしても活用されています。
BCP・防災マニュアルについて詳しくは、「BCP対策とは?基礎知識から策定手順、運用のポイントまでわかりやすく解説」「防災マニュアルの作成方法とは?BCPとの違いや押さえるべきポイントも解説」をご覧ください。
図上訓練(DIG)との違い
机上訓練とよく比較されるのが、図上訓練(DIG:Disaster Imagination Game)です。
図上訓練は、緊急事態発生時に施設や地域の地図を使って「参加者一人ひとりが実際にどう行動するか」を実践形式でシミュレーションする訓練です。地図上で避難経路を確認したり、実際の移動時間を計測したりと、より具体的な動作の確認に重点が置かれています。
対して机上訓練は、シナリオに沿って「どう対応すべきか」を議論し、最適な対応策を導き出すことに重点を置きます。役割分担や部門間の連携体制を確認しながら、対応判断や意思決定のプロセスをシミュレーションする点に特徴があります。
机上訓練のメリット
机上訓練を行うことで、次のようなメリットを得られます。
BCPの理解を深められる
机上訓練では、参加者が具体的な対応を実際のシナリオで学習できます。単に手順を覚えるだけでなく、なぜその対応が必要なのか、どのような判断基準で意思決定を行うのかといったBCP策定の背景も理解できるようになります。こうした訓練を通じて、マニュアルに書かれていない状況でも適切な判断ができる力が養われます。
低コスト・安全に実施できる
机上訓練は、会議室と参加者を確保すれば実施できるため、特別な設備や専用の場所を必要とせず、低コストで気軽に始められます。また、実際の行動を伴わないため物理的なリスクがなく、安全かつ準備負担も少ない訓練といえます。BCPの定着を図る訓練として、取り組みやすい方法のひとつです。
緊急時の課題を洗い出せる
書類上では完璧に見えるBCPも、実際のシミュレーションを行うことで想定外の課題が浮き彫りになることがあります。例えば、担当者の重複、代替拠点の管理者不明、通信障害時の代替手段未設定といった問題を事前に洗い出すことで、BCPの改善に反映できます。
社員の当事者意識・判断力を高められる
具体的なシナリオに基づいて自分の役割を考えることで、参加者に当事者意識が芽生えやすくなります。また、訓練中にさまざまな状況判断を求められることで、判断力が養われるため、緊急時にはより適切な対応ができるようになるでしょう。
机上訓練の進め方
机上訓練は、次のように進めます。
1.目的を明確にする
効果的な机上訓練を実施するためには、まず訓練の目的を明確にすることが重要です。BCPの初動対応手順の検証、部門間の連携体制確認、重要業務の継続判断基準のチェックなど、具体的な目的を設定しましょう。
2.具体的なシナリオを設定する
訓練の軸となるシナリオを具体的に設定します。災害の種類と規模、発生日時、被害の具体的内容、外部環境などを盛り込みます。例えば、「平日午前10時、主要拠点で震度6強の地震が発生。エレベーターが停止し、一部でガラスが割れている」といった詳細な状況を設定します。
3.役割分担・ファシリテーターの設定
災害時に実際に意思決定や初動対応を担う人を中心に参加者を選定し、訓練の進行役としてファシリテーターを設置します。ファシリテーターは、シナリオの状況説明や議論の進行、時間管理などを担当する重要な役割を負います。机上訓練に慣れた外部専門家に依頼するという選択肢もあります。また、訓練中に出た意見や課題を記録する記録係の配置も必要です。
4.訓練の実施
設定したシナリオに基づいて時系列で訓練を進めていきます。ファシリテーターが状況を説明し、参加者がその都度どのような対応を取るかを議論します。
訓練の実施形式には、参加者をグループに分けて議論しながら対応策を検討する「ワークショップ型」と、実際の役職に応じた役割を演じる「ロールプレイング型」があります。訓練中は正解を求めるのではなく、さまざまな視点からの意見交換を促すことが重要です。
5.訓練の振り返り
訓練後の振り返りは、机上訓練において特に重要なステップです。訓練中に発見された課題や改善点を整理し、実際のBCPの見直しにつなげることで、初めて訓練の価値が発揮されます。
参加者の気づきや疑問点、良かった点、具体的な改善案などを記録し、次回の訓練計画やマニュアルの改訂に活用します。こうしたレビュー結果は文書化して関係者間で共有し、組織全体で改善意識を高めていくことが重要です。これを継続的に実践することで、BCPの実効性を段階的に強化していけるでしょう。
効果的な机上訓練を行うためのポイント
机上訓練を効果的に行うポイントは、次の通りです。
自社の特性を踏まえた現実的なシナリオ設定
自社の事業特性や地域特性を踏まえた現実的なシナリオを設定することが重要です。製造業なら供給網の寸断、IT企業ならシステム障害など、業界特有のリスクを盛り込みます。
また、津波リスクの高い沿岸部や、土砂災害の危険がある山間部など、立地特性の違いも考慮する必要があります。同業他社や地域で実際に発生した事例を参考に、リアリティのあるシナリオを作成することで、参加者が自らの役割を主体的に捉えるきっかけになります。その結果、意見交換も活発になり、活発な議論の展開が期待できるでしょう。
定期的な実施
机上訓練は1回限りではなく、定期的に開催することで効果を高められます。定期的に実施することで、前回明らかになった課題が改善されているかどうかを検証できると同時に、時代や地域の変化に伴って新たに生じるリスクにも柔軟に対応できるようになります。また、参加者の防災意識を維持、向上させることにもつながるでしょう。
机上訓練でBCPの実効性を向上させよう
机上訓練は、BCP(事業継続計画)を実効性のあるものにするために欠かせない訓練手法です。会議室と参加者さえ確保できれば始められるため、BCP策定後に初めて訓練を実施する企業にも取り組みやすいのが特徴です。
適切な手順とポイントを押さえて実施することで、初動対応や連携判断のスピード・精度が向上するなど、災害時の実践力を底上げできます。
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