感震ブレーカーは後付けできる?種類・費用・導入方法を解説

大規模地震による被害は建物の倒壊や家具等の転倒、キャビネット内のものが落下することによる下敷き、キャスター付きの大型機器の移動による挟み込み、ガラスの飛散によるケガ、エレベーターへの閉じ込めだけではありません。地震の発生に伴った津波の襲来、火災や土砂災害といった二次災害の発生リスクも大いに高まります。二次災害のうち、地震後の火災の多くは、停電が復旧した際に破損した電気機器から出火する「通電火災」によるものです。避難後の無人の建物で発生するため初期消火ができず、企業にとっては設備や重要書類の損失につながる重大なリスクとなります。
こうした通電火災を防ぐために有効なのが「感震ブレーカー」です。後付けで導入できるため、既存の事業所やオフィスでもすぐに対策を講じられます。
本記事では、防災・BCP担当者や総務部門の方に向けて、感震ブレーカーの基本情報や3つのタイプの特徴、費用や補助金制度に加え、導入時の注意点や作動後の対応まで、導入前に知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。
目次
感震ブレーカーとは?
地震後の通電火災を防ぐために役立つ感震ブレーカーですが、その仕組みや種類を正しく理解しておくことが重要です。ここでは、まず基本的な特徴と必要性について解説します。
感震ブレーカーとは何か
感震ブレーカーは、一定以上の揺れ(一般的には震度5強以上)を感知すると、自動的にブレーカーを落として電気の供給を遮断する装置です。地震による停電が復旧した際の通電火災を防ぐことを目的としています。
感震ブレーカーには、分電盤タイプ、コンセントタイプ、簡易タイプの3種類があり、いずれも既存の建物に後付けで設置できます。新築時だけでなく、すでに使用している事業所やオフィスにも導入可能です。工事が必要なタイプもあれば、コンセントに差し込むだけで使えるタイプもあり、施設の状況や予算に応じて選択できます。
電気設備の技術基準を定めた民間規格「内線規程」では、2016年の改定で感震ブレーカーの設置が推奨されています。法的義務ではありませんが、防災対策として導入する企業が増えています。
なぜ感震ブレーカーが必要なのか
地震後の火災で特に注意すべきなのが「通電火災」です。これは、地震により停電したあと、復旧したタイミングで電気が再び流れることで発生する火災のことです。揺れで倒れた電気ストーブや破損した配線、転倒した家電製品などに通電すると、そこから出火する恐れがあります。
企業にとって深刻なのは、これらの火災が避難後の無人の建物で発生する点です。地震発生時には従業員の避難を優先するため、ほとんどの電気機器は電源が入ったままになります。そのため、停電が復旧した際に出火しても、誰も気づけず火災が広がりやすくなります。
実際に、阪神・淡路大震災では火災の約6割、東日本大震災では過半数が通電火災によるものと推定されています。こうした通電火災は、事業所や工場でも、製造設備やサーバー、在庫商品、重要書類など、事業継続に欠かせない資産を失わせる重大なリスクとなります。
企業が感震ブレーカーを導入すべき主な理由は、以下の3点です。
- 従業員と来客者の安全確保
企業には安全配慮義務があり、災害時のリスクを想定し対策を講じる必要があります。
- 事業継続(BCP)の確保
火災により設備や在庫、データが焼失すれば、復旧までに長い時間とコストを要します。
- 地域社会への責任
事業所からの出火が近隣へ延焼すれば、地域全体の復旧を遅らせる要因になります。
感震ブレーカーの仕組みと効果
感震ブレーカーの動作は以下の流れで行われます。
- 地震発生時に内蔵センサーが揺れを検知
- 設定震度以上(一般的には震度5強以上)であればブレーカーを自動遮断
- 停電から復旧しても電気は遮断されたまま
- 建物に戻った際、安全を確認してから手動でブレーカーを復旧
この仕組みにより、破損した電気機器に通電することを防ぎ、無人状態での通電火災リスクを大幅に低減できます。消防庁の試算では、首都直下地震における出火件数を約4割削減できるとされています。
製品によっては、遮断までの時間を調整できるものもあります。例えば、揺れを感知してから3分後に遮断する設定にすれば、従業員が安全に避難する時間を確保しつつ、無人状態での通電火災を防ぐことができます。
後付け可能な感震ブレーカーの3つのタイプと特徴
感震ブレーカーには複数のタイプがあり、それぞれ特性や適した施設が異なります。自社に最適なものを選ぶために、3種類の特徴を比較して確認しましょう。
分電盤タイプ(内蔵型・後付け型)
分電盤タイプは、建物全体の電気を一括で遮断するタイプです。分電盤の主幹ブレーカーに連動して作動するため、施設全体を確実に保護できます。
内蔵型は感震機能を備えた分電盤に交換するタイプで、既存の分電盤を交換することで後付けできます。後付け型は、既存の分電盤に感震ユニットを追加するタイプで、分電盤に空きスペースがあれば比較的容易に設置できます。
メリット
- 建物全体を確実に保護できる
- 一度の設置で全ての電気機器が対象
- 遮断までの時間を調整できる製品もあり、避難時間を確保可能
デメリット
- 電気工事が必要
- 導入コストが比較的高い(6万円〜15万円程度)
- 施設全体が停電するため、非常用照明や通信機器などへの別途対策が必要
適した施設
分電盤タイプは、建物全体を一括して保護したい施設に適しています。多数の従業員が働くオフィスビルや事業所、設備が多く稼働する工場など、地震後の通電火災リスクを広い範囲で確実に抑えたい場合に効果的です。
コンセントタイプ
コンセントタイプは、特定のコンセントに差し込むだけで使用できるタイプです。感震センサーを内蔵したアダプターを既存のコンセントに差し込み、そこに電気機器を接続します。
メリット
- 工事不要で手軽に導入できる
- 必要な場所に必要な数だけ設置可能
- 賃貸物件でも導入可能
- 比較的低コスト(1台5,000円〜2万円程度)
デメリット
- 接続されていない電気機器は保護できない
- 施設全体をカバーするには複数台の設置が必要
- 製品によって接続可能な電力容量に制限あり
適した施設
コンセントタイプは、特定の電気機器だけを優先的に保護したい場合に適しています。例えば、火災リスクの高い電気ストーブやヒーターを使用しているスペース、サーバールームのように重要機器が集まる部屋、調理場や給湯室など熱源を使うエリアなどです。また、工事が難しい賃貸オフィスや店舗でも手軽に導入できます。
簡易タイプ(おもり式・バネ式)
簡易タイプは、分電盤のブレーカーに直接取り付ける小型の装置です。おもり式は揺れによっておもりが落下してブレーカーを物理的に遮断し、バネ式はバネの力でブレーカーを押し下げます。
メリット
- 最も低コスト(1個3,000円〜5,000円程度)
- 電源不要で取り付けが簡単
- 電池交換などのメンテナンスが基本的に不要
- 複数の分電盤に設置しても数万円以内に収まる
デメリット
- おもり式は誤作動のリスクあり(大型車両の通行など地震以外の振動でも作動する可能性)
- 遮断時間の調整や感度の微調整ができない
- 分電盤の形状によっては取り付けられない場合あり
適した施設
簡易タイプは、コストを抑えてまず感震ブレーカーを導入したい中小規模のオフィスや店舗に向いています。設備が比較的シンプルな倉庫やバックヤード、あるいは試験的に導入して効果を確認したい場合にも適しています。
企業の施設タイプ別おすすめの選び方
施設の規模や用途によって、選ぶべき感震ブレーカーのタイプは異なります。ここでは、代表的な施設ごとの導入パターンを簡潔にまとめます。
オフィスビル・事業所
おすすめ:分電盤タイプ
多数の従業員が働くため、建物全体を一括して保護できる分電盤タイプが適しています。
店舗・商業施設
おすすめ:分電盤タイプ+コンセントタイプの組み合わせ
営業エリアは分電盤タイプで全体保護し、バックヤードなど火災リスクの高い機器がある場所にはコンセントタイプを併用すると効果的です。
工場・倉庫
おすすめ:分電盤タイプ+簡易タイプの組み合わせ
製造ラインや重要設備を分電盤タイプで保護し、一般エリアには簡易タイプを併用するなど、タイプを組み合わせる導入が現実的です。
医療機関
おすすめ:分電盤タイプ(生命維持装置は対象外とし、UPSと併用)
人工呼吸器など生命維持に関わる医療機器は感震ブレーカーの対象から外し、無停電電源装置(UPS)で保護します。一般エリアは分電盤タイプで通電火災を防止します。
介護施設
おすすめ:分電盤タイプ(医療機器エリアは対象外)+コンセントタイプの組み合わせ
避難に時間を要する高齢者がいるため通電火災対策は重要です。ただし、酸素濃縮器など医療機器がある部屋は対象から外すか、UPSと併用します。
保育園・幼稚園
おすすめ:分電盤タイプ(遮断時間調整機能付き)
子供の安全確保が最優先です。遮断時間を調整できるタイプを選び、職員が子供を安全に避難誘導する時間を確保しつつ、通電火災を防止します。
小規模オフィス・店舗(予算が限られる場合)
おすすめ:簡易タイプ
まずは簡易タイプで最低限の対策を行い、必要に応じて分電盤タイプに切り替える段階的アプローチが有効です。
感震ブレーカーを後付けする際の費用と補助金制度
導入にあたっては、タイプごとの費用や、自治体が提供する補助金制度を把握することが大切です。ここでは、費用の目安と活用できる助成制度について解説します。
タイプ別の導入費用の目安
| タイプ | 本体価格の目安 | 工事の有無 | 合計費用の目安 | 特記事項 |
| 分電盤タイプ | 3万~10万 | 必要 (工事費3万~5万) | 6万~15万 | 空きスペースがあれば後付け型で費用が下がる |
| コンセントタイプ | 5,000円~2万円 | 不要 | 5,000円~2万円 | 設置場所が多いと総額が増える |
| 簡易タイプ | 3,000円~5,000円 | 不要 | 3,000円~5,000円 | 最安で、自社で取り付け可能 |
タイプごとに費用は大きく異なります。分電盤タイプは工事が必要で6万〜15万円ほど、コンセントタイプは1台5,000円〜2万円、簡易タイプは3,000円〜5,000円と最も安価に導入できます。また、分電盤タイプは定期点検が必要になる場合があるため、初期費用だけでなく運用コストも踏まえて検討することが大切です。
活用できる補助金・助成金制度
感震ブレーカーの導入については、一部の自治体が補助金や助成金を設けています。特に分電盤タイプは対象となるケースが多く、費用負担を抑えられる可能性があります。
例えば、以下のような自治体で制度が用意されています。
- 東京都の一部区:分電盤タイプの設置に対し、上限5万円の助成
- 神奈川県・千葉県の一部自治体:火災リスクの高い地域を対象に助成を実施
補助金を利用する際は、以下の点に注意が必要です。
- 申請期間が決まっており、予算に達し次第締め切られる
- 多くの場合、事前申請が必須で、購入後の申請は不可
- 地域ごとに対象条件が異なる
そのため、導入前に自社所在地の自治体で制度の有無や条件を確認することが重要です。
また、自治体によっては、防災対策全般を対象とした補助金を用意している場合もあります。感震ブレーカー単体では対象外でも、事業所の総合的な防災対策の一部として認められるケースもあるため、併せて確認すると良いでしょう。
参考:都道府県・市区町村における感震ブレーカーの支援制度一覧(令和6年度)|内閣府
導入コストを抑えるポイント
感震ブレーカーの導入費用は、工夫次第で抑えることができます。主なポイントは次の3つです。
- 段階的に導入する
一度に全エリアへ設置するのではなく、火災リスクの高い場所や重要度の高いエリアから優先的に導入します。予算に合わせて段階的に拡大していく方法です。
- タイプを使い分ける
主要エリアは分電盤タイプで確実に保護し、それ以外の補助的なエリアにはコンセントタイプや簡易タイプを組み合わせることで、費用を抑えつつ必要な対策を行えます。
- まとめて導入する
複数拠点を持つ企業は、一括で導入することで製品の割引や工事費の効率化が期待できます。また、他の電気工事と同時に実施すれば、工事費をさらに抑えられることがあります。
このように、優先順位の設定やタイプの併用、導入のタイミングを工夫することで、費用を抑えながら必要な通電火災対策を進めることができます。
感震ブレーカーを導入する際の注意点と導入後の対応
導入後に安全に運用するためには、事前の確認事項や作動時の対応、定期点検なども理解しておく必要があります。ここでは、導入前後に押さえておきたいポイントを整理します。
導入前に確認すべきポイント
感震ブレーカーを導入する際は、次のポイントを事前に確認しておく必要があります。
- 停電させてはいけない設備の有無
人工呼吸器・透析装置などの医療機器、重要なデータを扱うサーバー、冷蔵・冷凍設備など、停電が許されない設備がある場合は注意が必要です。これらは感震ブレーカーの対象から外すか、無停電電源装置(UPS)との併用を検討します。
- セキュリティ・通信機器への影響
オートロックや入退室管理システムが停止すると、建物に戻れなくなる可能性があります。また、火災報知器や非常用照明など、防災設備への影響も確認しましょう。
- 既存の分電盤の状況
分電盤タイプを導入する場合、設置スペースに空きがあるか、ブレーカーの種類が対応しているかを事前に確認します。賃貸物件であれば、オーナーや管理会社への確認も必要です。
感震ブレーカー作動後の対応フロー
感震ブレーカーが作動した際の基本的な対応フローは、次の通りです。
- 建物の安全確認
倒壊の危険、ガス漏れ、異臭がないかなどを確認し、安全が確保されてから入室します。
- 電気機器の安全確認
電気機器の転倒、配線の破損、水漏れによる浸水などがないかをチェックします。異常があった場合は該当箇所の個別ブレーカーを入れず、そのままにします。
- ブレーカーの復旧
まず個別ブレーカーがすべて「切」になっていることを確認し、次に主幹ブレーカーを入れます。その後、個別ブレーカーを1つずつ順番に入れていきます。
これらの対応手順は、事前に文書化し、従業員へ周知しておくことが重要です。
定期点検・メンテナンスの重要性
感震ブレーカーは、設置しただけで終わりではありません。定期的な点検が必要です。
- 分電盤タイプ
メーカー推奨のタイミング(一般的に年1回)で動作確認を行います。センサー感度や遮断機能、バッテリー(搭載モデルのみ)などを点検します。
- コンセントタイプ
テストボタンで定期的に作動確認を行い、問題がないか確認します。
- 簡易タイプ
メンテナンスフリーですが、おもり・バネ・固定具などに異常がないか目視チェックを行うと安心です。
また、感震ブレーカー本体にも耐用年数があり、一般的には10年程度とされています。製品ごとの差も確認しておきましょう。
通電火災対策で企業の事業継続力を高める
感震ブレーカーは、分電盤タイプ・コンセントタイプ・簡易タイプの3種類があり、既存の建物でも後付けで導入できます。通電火災対策は、従業員の安全を守るだけでなく、重要設備やデータといった事業継続に欠かせない資産を保護する上でも欠かせません。
本記事で紹介した特徴や費用、補助金制度、導入時の注意点を踏まえ、自社の施設規模や用途に応じて最適なタイプを選びましょう。優先度の高い場所から段階的に導入することで、無理なく通電火災対策を進めることができます。 ジョインテックスカンパニーでは、店舗のBCP対策を強化するために防災備蓄品を中心に約1,400アイテムを掲載した「危機対策のキホン」カタログをご用意しております。店舗の防災対策のために、ぜひご活用ください。
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