企業の雪害対策とは?大雪による被害の種類と事業継続のための備えを解説

近年、気候変動により予測困難な大雪が各地で発生し、企業活動に深刻な影響を及ぼしています。豪雪地帯だけでなく、普段は雪の少ない地域でも突発的な大雪により交通機関の麻痺、物流の停止、施設の損壊など、企業の事業継続を脅かす事態が発生しています。

本記事では、企業向けに、被害の種類や大雪の傾向、対策実施が求められる理由、具体的な対策までをわかりやすく解説します。

大雪による被害の種類・近年の傾向

大雪による被害の種類

大雪は単なる積雪ではなく、災害や事故などさまざまな被害を引き起こすおそれのある自然現象です。主な被害は以下の4つに分類されます。

  • 積雪害(せきせつがい)

道路や線路、滑走路などが雪に埋まり、交通機能が麻痺する災害です。物流や人の移動が滞ることで、企業活動全体に影響します。

  • 雪圧害(せつあつがい)

建物や設備、樹木などが雪の重みにより損壊する災害です。事務所・倉庫・工場などの屋根が破損・崩落するケースがあります。

  • 雪崩害(なだれがい)

積もった雪が斜面を崩れ落ちることで発生する災害です。山間地の施設や道路沿いの事業所では、通行止め・孤立・人的被害のリスクが伴います。

  • 着雪害(ちゃくせつがい)

電線や鉄塔に雪が付着して重みにより切断・倒壊・短絡を起こす災害です。停電や通信障害、ネットワーク停止を引き起こします。

これらの雪害に加えて、凍結した路面での転倒事故や、除雪作業中の屋根からの転落事故なども毎年多数発生しています。また、寒波を伴うため路面や配管などが凍結し、給水管の破裂や断水を引き起こすおそれがあります。

近年にみられる大雪の傾向

日本は世界有数の豪雪国であり、日本海側の地域を中心に冬季には大量の降雪がもたらされてきました。しかし近年、従来の想定を超えるような次のような傾向が見られるようになりました。

  • 豪雪地帯における降雪の激甚化

従来から雪の多い地域で、想定を超える大雪が発生しています。

2018年に福井市で147センチの積雪を記録し、国道8号で1,500台を超える大規模な車両滞留が発生して、自衛隊の災害派遣も行われました。また、2025年2月には東日本から西日本の日本海側を中心に記録的な大雪となり、航空便の欠航、鉄道の遅延・運休、高速道路の通行止めなど広範囲に影響が及びました。

  • 豪雪地帯以外での突発的な大雪の頻発

従来は雪の少なかった関東地方や九州地方でも、突発的な大雪の発生が近年の傾向として見られます。2016年1月には九州北部で記録的な寒波により大雪となり、高速道路や国道が広範囲で通行止めとなるなど、交通に大きな影響が出ました。2018年1月、東京都心では20センチ以上の積雪により、鉄道や道路が広範囲でストップしました。除雪体制が十分に整備されていないこれらの地域では、わずかな積雪であっても交通機関のまひや企業活動の停滞を招きます。 こうした状況は、もはや豪雪地帯に限らず、全国的に大雪への備えが不可欠であることを示しています。

参考:平成28年1月 記録的寒波が九州を襲う ~国管理道路の対応~|国土交通省[PDF]

企業に雪害対策が必要な理由

企業防災の一環として、雪害対策が必要な理由は主に2つあります。

事業継続への影響

大雪は、人員不足や物流停止、サプライチェーンの断絶など、事業活動全体を停滞させます。さらに積雪による建物損壊や配管の凍結破裂、停電によるシステム停止など、設備・インフラ被害に発展する場合があり、復旧には多額のコストと時間を要します。復旧まで事業活動に長期的な支障をきたすだけでなく、納期遅延や供給責任を果たせない事態は、取引先や顧客との信頼関係を損なうおそれがあります。

事業継続については、「企業防災はなぜ重要?防災と事業継続から考える具体的な取り組み」で詳しく解説しています。

従業員の安全確保

企業には従業員の安全を守る「安全配慮義務」があります。通勤中の転倒事故や除雪作業中の事故、車両事故、車内での一酸化炭素中毒など、大雪時にはさまざまなリスクが高まります。無理な出勤命令や不適切な対応により従業員に被害が生じた場合、企業は安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。

企業防災については、「企業防災はなぜ重要?防災と事業継続から考える具体的な取り組み」で詳しく解説しています。

企業が実施すべき雪害対策

企業の雪害対策には、次のような方法があります。

大雪を想定したBCPの策定

大雪を想定したBCP(事業継続計画)を策定することが、すべての対策の土台となります。BCPとは、災害や事故などの緊急事態が発生した際に、事業への影響を最小限に抑え、迅速に復旧・継続するための計画です。

まず、自社の事業所や工場などの所在地における過去の降雪データを確認し、想定される降雪・積雪の規模や頻度を把握します。次に、大雪によって想定される 、交通網の寸断や物流遅延、従業員の出勤困難、設備の凍結・損壊 などの影響を分析し、事業への影響度を評価します。

これらを踏まえて、大雪時にも継続すべき重要業務を明確化し、優先順位を付けることで、非常時に限られたリソースを効果的に配分できるようにします。

なお、BCPは策定して終わりではありません。全従業員への周知と、定期的な訓練・見直しによって実効性を高めることが求められます。

BCP対策については、「BCP対策とは?基礎知識から策定手順、運用のポイントまでわかりやすく解説」 で詳しく解説しています。

建物・設備の雪圧害および損壊の防止

建物や設備の雪圧害もしくは損壊を防ぐためには、次のような対応が必要です。

  • 屋根・建物の耐雪性能の確認

建物の設計積雪荷重を事前に確認しておきます。想定を超える積雪が予想される場合に備え、専門業者と保守契約を結び、大雪時に優先的に雪下ろしを実施してもらえる体制を整えましょう。

築年数が古い建物や倉庫は、定期的な点検が必要です。カーポートは大雪で倒壊しやすいため、耐雪タイプへの交換や補強工事を検討します。

  • 看板の補強

屋外看板は落下の危険があるため、事前に撤去するか、しっかりと固定します。

  • 配管の凍結防止

水道管の凍結破裂は、大量の水漏れによって施設に大きな被害をもたらします。保温材の巻き付け、凍結防止ヒーターの設置、水抜き作業の実施などで対策します。

出勤・業務判断基準の設定

大雪の際の「出勤可否」「在宅勤務への切り替え」「業務継続の判断」について、迅速に決定できる基準を事前に定めます。例えば「大雪警報発表時は原則出勤見合わせ」「公共交通機関運休時は無理な出勤禁止」などです。

物流業や配送業では、通行止めによる車両滞留リスクが高いため、気象情報に基づく運行判断基準を明確化します。具体的には、大雪警報時の対応や積雪予報による出発見合わせラインなどを定めておくことが重要です。

在宅勤務・テレワーク体制の整備

大雪時の事業継続には、在宅勤務体制が欠かせません。クラウドシステム、Web会議ツールなどを平時から導入し、従業員が使い慣れておく必要があります。すべての業務をテレワーク化できない場合でも、可能な範囲で実施することで出勤者数を減らし、リスクを分散できます。

備蓄品の整備

帰宅困難者が発生した場合に備え、十分な備蓄品を準備します。

  • 基本備蓄

食料・飲料水は従業員数×3日分を基本とします。防寒用品(毛布、使い捨てカイロ、防寒着)、衛生用品(携帯トイレ、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、マスク、生理用品)を確保します。

  • 除雪用具

事業所へのアクセス確保のため、スノーショベル、スノーダンプ、融雪剤、凍結防止剤を事業所規模に応じて準備します。大規模施設では除雪機の導入も検討しましょう。

  • 非常用電源

停電に備え、自家発電機や畜電池を導入し、重要な業務システムや通信機器を稼働できる体制を整えます。

  • 車両関連

配送業務など車両を扱う業種では、車載用の防災備蓄品セットを用意します。

防災備蓄品については、「企業における防災備蓄品‐必要量の目安と選定のポイントは?」「防災備蓄品の準備で企業が抱えがちな悩みと解決するためのポイント」発電機と蓄電池の違いは?特徴、非常用電源としてどちらを選ぶべきかを解説」で詳しく解説しています。

大雪は地域を問わず起こりうる災害として対策を

近年、豪雪地帯での降雪の激甚化に加え、従来は雪の少なかった地域でも突発的な大雪が頻発しています。

こうした大雪は、企業の事業継続と従業員の安全に深刻なリスクをもたらします。企業には事業停止や供給網の混乱を防ぐとともに、従業員の安全を守る法的義務があるため、適切な雪害対策が求められます。

「自社の地域は雪が少ないから大丈夫」という考え方は、もはや通用しません。地域を問わず、すべての企業が大雪への備えを強化していく必要があります。 ジョインテックスカンパニーでは、雪害対策に必要な備蓄品を含む、防災備蓄品約1,400アイテムを掲載した「危機対策のキホン」カタログをご用意しております。企業の防災対策のために、ぜひご活用ください。