店舗の地震対策とは?被害の種類、飲食店・小売店が実施すべき備えを解説

南海トラフ地震・首都直下地震といった大規模地震の発生リスクが高まるなか、飲食店や小売店など店舗を運営する企業のなかには、地震対策を見直す必要性を感じる場面が増えているでしょう。
本記事では、店舗で想定される地震被害を踏まえ、具体的な地震対策について解説します。
目次
店舗に地震対策が求められる理由
日本は世界有数の地震大国であり、南海トラフ地震や首都直下地震など、今後数十年以内に発生が予測されている大規模地震が複数存在します。飲食店やスーパーマーケット、ドラッグストア、コンビニエンスストアといった店舗は、こうした地震が発生すれば、被害を免れることはできないでしょう。
店舗における地震対策が重要な理由は、主に2つあります。
顧客・従業員の安全確保
不特定多数の来店客が出入りするため、地震発生時には顧客と従業員の安全確保が最優先となります。営業時間中に地震が発生した場合、適切な避難誘導や安全確保の対応が求められます。
事業継続と地域インフラとしての役割
災害時には、店舗は食料品や日用品を供給する地域の生活インフラとして機能します。早期の営業再開は地域住民の生活を支える重要な使命となります。
そのためには、平時からの備えと災害対応力の強化が不可欠です。
店舗で起こりうる地震被害の種類
地震によって、店舗には次のような被害が想定されます。
建物・内装の損傷
大規模地震では建物自体が倒壊したり、柱や壁にひび割れが生じて構造的な安全性が失われたりする危険があります。室内の天井材や照明器具が落下した場合には、ガラス製のショーケース、窓ガラス、鏡などが破損して破片が店内に飛散します。壁面装飾や看板の落下の可能性もあります。
什器・商品の被害
商品棚や陳列棚、レジカウンターなどの什器が転倒し、店舗機能が失われます。棚から商品が落下・散乱すれば、商品そのものが破損して販売不能になります。飲食店では食器の破損や厨房機器の故障、小売店では在庫商品の損失などを引き起こします。
人的被害
営業中の地震では、建物の倒壊や落下物、転倒した什器により顧客や従業員が負傷するリスクがあります。パニック状態に陥った顧客が出口に殺到し、将棋倒しや転倒による二次被害が発生する可能性もあります。避難経路が商品や什器で塞がれれば、建物内に取り残される危険性も考えられます。
二次被害
地震の規模や発生場所によっては、建物の倒壊など直接的な被害だけでなく、さまざまな二次被害が発生します。主なリスクは以下の通りです。
調理場からの火災
調理を行う飲食店、スーパーマーケットなどでは、調理中のガスコンロや厨房機器からの出火から火事が発生するリスクもあり、特に注意が必要です。
地形に起因する被害
沿岸部では津波、傾斜地では土砂災害、埋立地では液状化現象が発生し、建物の倒壊や浸水、地盤沈下といった深刻な影響を及ぼします。
ライフライン途絶
電気・水道・ガスなどのライフラインが停止すれば、営業継続が困難になるだけでなく、トイレや手洗いが使えず衛生環境の悪化にもつながります。また、交通機関の停止により顧客や従業員が帰宅困難となり、店舗内での一時的な滞在が必要になるケースも想定されます。
これらの二次被害は、単独で起こるのではなく、連鎖的に発生するのが特徴です。たとえば、液状化による地盤の変化がガス管の破損を引き起こし、火災につながるといったケースもあります。
店舗の地震対策【基本】
地震による被害を最小限に抑えるために、今すぐ取り組むべき基本的な地震対策を解説します。
什器・棚の転倒防止
商品棚や陳列棚は、L字金具で壁に固定するか、天井との間に突っ張り棒を設置して転倒を防ぎます。壁への固定が難しい場合は、什器同士を連結金具で固定したり、底部に耐震マットを敷いたりする方法も有効です。レジカウンターや作業台もアンカーボルトや固定金具でしっかりと固定し、飲食店では食器棚や冷蔵庫、業務用オーブンなどの厨房機器も同様に固定します。
商品の落下防止
棚の転倒対策に加え、商品自体の落下を防ぐ工夫も欠かせません。商品棚の手前に落下防止バーを取り付けたり、棚板に滑り止めシートを敷いたりして、商品の移動や落下を防ぎます。
飲食店では、食器を重ねすぎず、調味料ボトルはトレイにまとめて収納し、食器棚の扉には耐震ラッチを取り付けます。小売店では、商品ディスプレイを固定金具で固定し、底部に重りを置いたり、壁に固定したりといった対応が有効です。
ガラスや照明器具の落下・飛散防止
ショーケースや窓ガラス、鏡などのガラス面には飛散防止フィルムを貼り、割れた際の被害を抑えます。照明器具には落下防止用のワイヤーや金具を取り付けましょう。
また、壁に設置された額縁や装飾品、POP広告なども、フックや粘着マットなどで固定しておくと安心です。
照明については、LED照明への切り替えも検討しましょう。アクリル素材のLED照明は割れにくく、地震時の安全性が高いほか、電気代の削減にもつながります。さらに、「水銀に関する水俣条約」により2027年末までには蛍光灯の製造・輸出入が禁止されることもあり、早めに切り替えることをおすすめします。
参考:全ての一般照明用蛍光ランプ(蛍光灯)について製造・輸出入の禁止が決定 | LED照明ナビ | JLMA 一般社団法人日本照明工業会
店舗内避難経路の確保
店舗では、災害時に円滑な避難を確保するため、通路や非常口の周辺に物を置かないなど、常に安全な導線を保つ必要があります。建築基準法や消防法でも、避難経路や非常口の幅、通行障害物の設置禁止などが定められており、これらの法令を遵守することは店舗運営の基本です。
例えば、避難経路には転倒しやすい什器や商品を置かず、非常口をふさがないよう配慮することが必要です。また、誘導灯は蓄光式や非常用電源対応のものを使用し、停電時にも視認性を確保できるよう備えます。
さらに、従業員全員が避難経路を把握し、有事に迷わず行動できるよう、日常的な情報共有と定期的な確認が欠かせません。
建物内の避難経路の規定について詳しくは、「オフィスの避難通路の幅はどの程度確保しておく必要がある? 」で解説しています。
参考:建築基準法施行令 | e-Gov 法令検索 消防法 | e-Gov 法令検索
店舗の地震対策【運用・体制整備】
基本的な対策と並行して、運用・体制面で実施すべき対策を解説します。
BCP(事業継続計画)・防災マニュアルの策定
BCP(Business Continuity Plan : 事業継続計画)とは、非常時においても重要な業務を維持または早期に再開するための具体的な行動計画です。これを策定し、優先的に復旧すべき業務の選定や仕入先の代替手段、営業再開の判断基準などをあらかじめ明文化しておきましょう。
また、地震発生時の初動対応や顧客の避難誘導について、従業員が取るべき行動を明文化した防災マニュアルの整備も不可欠です。顧客誘導、安全確認などの役割を明確に分担します。
BCP、防災マニュアルについては詳しくは、「BCP対策とは?基礎知識から策定手順、運用のポイントまでわかりやすく解説」「防災マニュアルの作成方法とは?BCPとの違いや押さえるべきポイントも解説」で解説しています。
ハザードマップ・避難場所の確認
災害時の避難行動を想定し、店舗周辺の地形やリスクを把握しておくことも重要です。津波や土砂災害の危険区域、ブロック塀・自動販売機など倒壊リスクのある設備の位置を事前に確認しましょう。
最寄りの避難所や安全な経路を把握し、従業員間で共有しておくことで、実際に避難する際の混乱を防ぐことができます。複数の避難ルートを想定しておくと、状況に応じた柔軟な対応が可能になります。
自然災害の発生リスク把握には、各自治体が公開するハザードマップの活用が有効です。
詳しくは、「【企業の防災対策】ハザードマップの具体的な活用方法は?その注意点も解説」で解説しています。
防災備蓄品の整備
地震発生時、従業員や顧客が店舗内に長時間とどまる可能性があるため、備蓄品の整備は欠かせません。帰宅困難者の受け入れを想定し、人数分×3日分の非常食や保存水、携帯トイレ、衛生用品、懐中電灯、ラジオ、蓄電池などを準備します。保管場所は、すぐに取り出せる位置が理想です。
備蓄品には賞味期限や使用期限があるため、定期的なチェックと入れ替えを行う管理体制を整えておきましょう。
備蓄品の整備について詳しくは、「企業における防災備蓄品 必要量の目安と選定のポイントは?」や「発電機と蓄電池の違いは?特徴、非常用電源としてどちらを選ぶべきかを解説」で解説しています。
定期的な防災訓練の実施
地震発生時に備え、年1~2回の防災訓練を実施し、マニュアルに基づいた対応を実践します。営業時間中・閉店後など異なるシナリオを想定し、実際の行動をシミュレーションすることが重要です。
訓練後は振り返りを行い、見つかった課題をマニュアルや役割分担の見直しに反映させ、継続的に改善を図りましょう。
店舗の地震対策で安全確保と事業継続を両立
店舗における地震対策は、顧客や従業員の安全を守るだけでなく、事業の早期復旧・継続に直結する重要な取り組みです。什器の転倒防止や避難経路の確保、備蓄品の整備といった基本的な対策に加え、BCPや防災マニュアルの整備など、体制面からの備えも欠かせません。
地震はいつ起きるか予測できないからこそ、平時から備えておくことが重要です。リスクを正しく把握し、可能な範囲から対策を進めていきましょう。
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