垂直避難とは?水平避難との違いや適している状況、企業の備えを解説

災害時における適切な避難行動は、命を守るための最も重要な判断のひとつです。近年の豪雨災害の激甚化に伴い、従来の「水平避難」だけでなく「垂直避難」の重要性が高まっています。しかし、どのような状況でどちらを選択すべきかの判断は難しく、誤った選択は命に関わる危険性をはらんでいます。本記事では、垂直避難の基本から、企業が取るべき対策まで、災害時に適切な判断をするための知識を解説します。

垂直避難とは

垂直避難とは、災害発生時または発生が予想される際に、現在いる建物内のより高い階層へ移動して安全を確保する避難方法です。例えば、洪水時に1階から2階以上へ避難したり、高層ビルで下層階から上層階へ移動したりする行動が該当します。

水平避難との違い

水平避難(立ち退き避難)は、危険が予想される場所から離れて、指定避難所や安全な場所へ移動することを指します。従来の防災対策では、この水平避難が基本とされてきました。

両者の最大の違いは、移動の方向と距離にあります。垂直避難は同じ建物内で上の階へ移動するのに対し、水平避難は別の場所へと離れることを意味します。

どちらが優れているということではなく、災害の種類や状況に応じて適切に選択することが重要です。

垂直避難が注目されるようになった背景

ゲリラ豪雨といった大雨により、突発的な浸水被害が増加しています。過去の災害でも、避難所への移動中に、被災したケースが報告されています。そのため、必ずしも「避難所に行くこと」ではなく「命の安全を確保すること」が第一義という考え方が浸透してきました。

特に、都市部では、高層建築物の増加に伴い、垂直避難が重要な選択肢として位置づけられています。

ゲリラ豪雨や浸水被害について詳しくは、「ゲリラ豪雨とは?発生のしくみや想定される被害、企業が行うべき備えを解説」「ゲリラ豪雨に備え企業が行うべき対策とは?被害を最小限に抑える方法を解説」「企業の水害・浸水対策とは?求められる理由や具体的な方法を解説」をご覧ください。

垂直避難が適しているケース

災害発生時や発生が予想される状況では、適切な避難方法を選択することが命を守る鍵となります。ここでは、垂直避難が適している具体的なケースを解説します。

すでに災害が発生している状況

浸水や土砂災害がすでに始まっている場合、外に出ることでかえって危険にさらされる可能性があります。特に、避難所までの道のりに浸水や土砂崩れの危険がある場合や夜間や悪天候時など視界が悪い場合は、無理に避難所を目指すことで命の危険が増します。こうした状況では、建物内のより高い場所へ移動する垂直避難が安全確保の適切な選択となります。

浸水深が建物の高層階より低い場合

浸水深(地面からの水の高さ)が建物の一部の階までにとどまると予測される場合は、垂直避難が有効です。浸水予測より上の階に避難することで安全を確保できます。例えば、想定浸水深が建物の低層階までであれば、浸水しない上層階に避難することで安全を確保できます。このような場合、わざわざ危険を冒して避難所へ向かう必要はないでしょう。

浸水深は、ハザードマップで確認可能です。

ハザードマップについては、「ハザードマップとは?見方や種類、防災担当者がチェックすべきポイントを解説」で詳しく解説しています。

建物の構造が強固で安全な場合

建物自体が十分な耐水性を持ち、浸水時も構造的に安全が確保される場合、その建物内での垂直避難は有効な選択肢となります。特に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物は、木造に比べて水害に強く、垂直避難に適しています。ただし、木造の古い建物や耐水性に不安がある場合は、状況が許す限り早めの水平避難を検討すべきでしょう。建物の構造や築年数を考慮し、垂直避難が適しているかどうかを事前に判断しておくことが重要です。

水平避難が適しているケース

一方、水平避難が適しているケースもあります。

被災までに十分な猶予がある場合

台風の接近や大雨警報の発令など、災害発生までに時間的余裕がある場合は、安全なうちに水平避難を行うことが理想的です。避難勧告や避難指示などの情報が発令された早い段階で行動を開始することで、落ち着いて安全に避難することが可能です。特に高齢者や障がい者など、避難に時間がかかる方がいる場合は、早めの水平避難が推奨されます。時間的余裕があれば、必要な荷物も準備でき、混乱を避けて避難所へ向かうことができるでしょう。

浸水の長期化が予想される地域

海抜ゼロメートル地帯や河川の氾濫による広域浸水が予想される地域では、浸水が長期間続く可能性があります。こうした地域では、一時的な垂直避難後も水が引くまで長期間孤立するリスクがあるため、状況が悪化する前に水平避難を行うことが望ましいでしょう。電気・水道などのライフラインが途絶える可能性も高く、垂直避難では対応が困難になります。

建物自体が倒壊のリスクにさらされる場合

土砂災害警戒区域内の建物や河川に近い建物では、災害時に建物自体が危険にさらされる可能性があります。急流に面した建物は水の勢いで倒壊するおそれがあり、このような状況では垂直避難は適切ではありません。時間的余裕があるうちに、安全な場所への水平避難を選択すべきです。

垂直避難に備えて企業が行うべき対策

企業が従業員の安全を確保し、事業継続を図るためには、垂直避難を想定した防災対策も重要です。ここでは企業が取り組むべき主な対策を紹介します。

ハザードマップによるリスク把握

企業は所在地のハザードマップを確認し、浸水想定や土砂災害リスクを把握することが重要です。国土地理院の「ハザードマップポータルサイト」では、浸水深や想定される災害の種類を確認できます。

適切な避難方法を選択するためには、事業所がある地域のハザードマップを確認し、どのような災害リスクがあるのかを事前に把握しておくことが不可欠です。垂直避難よりも早期の水平避難が適切なケースもあるため、地域の災害特性を理解し、複数の避難オプションを準備しておくことが重要です。

参考:ハザードマップポータルサイト|国土地理院

ハザードマップの企業防災への活用方法については、「【企業の防災対策】ハザードマップの活用方法とその注意点を解説」で詳しく解説しています。

事業継続計画(BCP)への反映

事業継続計画(BCP)には、垂直避難に関する判断基準と行動計画を明確に盛り込みましょう。災害時の意思決定フローや避難場所の指定、従業員への指示系統を定め、いつ・誰が・どのように垂直避難を決断し実行するかを明確にします。

また、災害タイプ別の避難計画を策定し、定期的な訓練と見直しを行うことが重要です。特に水害時の垂直避難については、避難する階層や経路を含めた具体的な計画を策定しておくことが必要です。

BCPについては、「BCP対策とは?その目的と取り組む際の流れを解説」にて詳しく解説しています。

防災備蓄品の整備

垂直避難を想定した場合、オフィス内で数日間過ごせるよう防災備蓄品を整備する必要があります。保存水・非常食(3日分を目安)、簡易トイレ、非常用電源(発電機、蓄電池など)、懐中電灯などの基本的な防災備蓄品を、高層階の安全な場所に分散配置しておきましょう。ライフラインが長期間使用できなくなり、孤立する可能性に考慮した準備が必要です。

防災備蓄品や蓄電池については、「企業が蓄電池を導入するメリットは?災害時以外の活用方法も紹介」「企業における防災備蓄品‐必要量の目安と選定のポイントは?」にて詳しく解説しています。

状況に応じて適切な避難判断ができるよう備えよう

垂直避難と水平避難は、どちらが優れているというものではなく、災害の種類や状況、建物の条件などに応じて適切に選択することが重要です。企業としては、ハザードマップで災害リスクを把握したうえで、BCPへの垂直避難計画の組み込み、適切な防災備蓄品の整備といった対策を実施することが重要です。従業員一人ひとりが災害時に適切な判断ができるよう、日頃から教育や訓練を行うことも欠かせません。

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