【商業施設のBCP】重要性や策定手順、効果的に運用するポイントを解説

ショッピングモールや百貨店、複合商業施設などの商業施設は、不特定多数の人々が訪れ、複数のテナントが入居するなど、関係者が多岐にわたる複雑な環境です。

そのため、災害や事故などの緊急事態が発生すると、来館者の安全確保からテナント対応、施設運営まで、施設の関係者全体に影響が及ぶ可能性があります。こうしたリスクに備えるためには、平時から緊急時の行動方針や優先業務を整理したBCPが欠かせません。

本記事では、商業施設にBCP策定が求められる理由から、策定手順や効果的な運用のポイントまでを詳しく解説します。

商業施設にBCP策定が求められる理由

商業施設は、多くの人やテナントが関わる複合的な事業形態であり、災害や事故などの有事が発生すると、多方面に大きな影響を及ぼす可能性があります。こうしたリスクに備えるためには、BCPを策定することが欠かせません。

BCPとは、「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略で、緊急時においても重要な業務を維持または早期に再開するための具体的な行動計画を指します。このBCPを策定・運用していく一連の取り組みをBCP対策と呼びます。

BCP対策については、「BCP対策とは?基礎知識から策定手順、運用のポイントまでわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

商業施設においてBCP策定が求められる理由は、大きく分けて次の2点です。

顧客・従業員・テナントの安全確保のため

商業施設では、有事の対応遅れが人命に関わる重大なリスクとなる場合があります。BCPを通じて避難誘導や緊急連絡体制、ライフラインの確保などを事前に準備することで、施設内にいる人々の安全を守ることができます。これは、施設運営者としての社会的責任を果たすことであり、顧客やテナントからの信頼獲得にもつながります。

店舗や商業施設以外にも、多くの人が集まる施設も同様の取り組みが求められます。詳しくは、「多くの人が集まる役所やその他施設における災害リスクと対処法は? 」で解説しています。

有事発生時の事業継続のため

有事において、商業施設の営業停止は、売上機会の損失だけでなく、テナントや従業員、地域経済にも大きな影響を与えます。BCPを策定しておくことで、被害を最小限に抑え、早期に事業を再開するための体制や手順を明確にできます。施設全体として対応体制を整えることで、事業の継続性を高め、関係者全体の損失を防ぐことができます。

商業施設が直面する主なリスク

効果的なBCPを策定するには、まず商業施設が抱えるリスクを正しく理解する必要があります。ここでは、主なリスクについて解説します。

自然災害(地震・台風・豪雨など)

地震や台風、豪雨、豪雪などの自然災害は、近年発生頻度が高まっています。被害規模も拡大傾向にあります。停電や浸水が重なると、施設運営に深刻な支障をきたします。事前対策と復旧体制の整備が求められます。

自然災害について詳しくは、「自然災害の種類と特徴とは?企業活動への影響や取り組むべき対策を解説」で解説しています。

感染症の流行

不特定多数が集まる商業施設では、感染拡大のリスクが高まります。クラスター発生源となれば、営業停止を余儀なくされるでしょう。風評被害も懸念されます。換気設備の強化、消毒体制の構築、従業員の健康管理が基本です。テナントとの協力体制も平時から整えておく必要があります。

テロ・不審者侵入

多くの人が集まる商業施設は、テロや不審者による犯罪の標的になりやすい場所です。このような事態では、迅速な避難誘導と警察への通報、そして二次被害の防止が求められます。防犯カメラの設置や警備員の配置だけでなく、異常事態を察知した際の対応手順や従業員への訓練、テナントスタッフも含めた全館的な危機管理体制を構築しておくことが必要です。

情報漏洩・サイバー攻撃

商業施設では顧客の個人情報やクレジットカード情報、売上データなど膨大な機密情報を扱います。漏洩すれば、顧客への損害賠償が発生するだけでなく、企業の信用失墜につながるでしょう。

ランサムウェア攻撃によって決済システムやPOSシステムが停止すれば営業継続が不可能です。テナントとの情報共有システムも攻撃対象となります。セキュリティ対策とバックアップ体制を平時から整備する必要があります。

物流やインフラの停止

商業施設の運営は、ライフラインと物流網に大きく依存しています。電気・水道・ガスの停止は営業継続を困難にします。食品を扱うテナントでは、冷蔵・冷凍設備の停止が商品廃棄ロスに直結します。大規模災害では道路が寸断され、商品供給が途絶えるおそれがあります。代替エネルギー源の準備や複数の供給ルート確保が必要です。サプライチェーン全体を視野に入れた対策が求められます。

商業施設のためのBCP策定手順

商業施設のBCPを効果的に策定するには、以下の手順に沿って進めます。

1. 対象事業を絞る

緊急時にすべての機能を同時復旧させることは困難です。商業施設では「顧客の安全確保と避難誘導」が最優先事項となります。 次に、段階的な営業再開の計画を立てます。売上への貢献度が高いテナントや食品売り場が中心となるでしょう。地域住民の生活に不可欠な店舗も重要な復旧対象です。 インフラ機能の復旧順序も明確にしておく必要があります。駐車場、空調設備、決済システムなど、限られたリソースをどの順で投入するか事前に定めることが重要です。

2. リスク分析をする

商業施設において、地震や台風、火災、停電、感染症拡大、サイバー攻撃など、事業が中断するおそれのあるあらゆるリスクを洗い出します。

地震を例にとると、建物の耐震性、天井や什器の落下リスク、エレベーター閉じ込めの可能性、パニックによる混乱などを具体的に検討します。自然災害の発生リスク把握には、各自治体が公開するハザードマップの活用が有効です。

詳しくは、「【企業の防災対策】ハザードマップの具体的な活用方法は?その注意点も解説」で解説しています。

商業施設特有の視点として、「来館者数が最も多い時間帯に災害が発生した場合」を最悪シナリオとして検討することが重要です。平日と休日、昼間と夜間で想定される被害や対応方法が異なるため、複数のシナリオを用意します。

3. 事前対策を検討する

想定される被害に対して、代替手段や事前対策を具体的に検討します。商業施設における対策は、大きく3つの領域に分けられます。

  • 設備・インフラ面の対策

非常用電源の配備、トイレの整備が基本です。館内放送システムは多重化し、防災備蓄品は来館者用も含めて準備します。

備蓄品の整備について詳しくは、「企業における防災備蓄品 必要量の目安と選定のポイントは?」や「発電機と蓄電池の違いは?特徴、非常用電源としてどちらを選ぶべきかを解説」で解説しています。

  • 運営体制の対策

緊急時の責任者と代理責任者を複数設定します。各部門の役割分担を明確化し、テナントや警察・消防・医療機関との連携体制を構築しておきます。

  • 情報システム面の対策

重要データはクラウドにバックアップし、複数の通信手段を確保します。

4.BCPや防災・避難誘導マニュアルを作成する

検討内容をBCP(事業継続計画)として文書化し、事前対策や対応体制などを整理して企業の方針を明確にします。あわせて、BCPに基づく防災マニュアルを作成し、「誰が、何を、どうするか」を具体的に記載します。例えば「停電時は設備担当者が5分以内に非常電源へ切り替える」といった形で、誰でも迷わず行動できる表現が重要です。

商業施設では、館内マップ付きの避難誘導マニュアルやテナント向けの簡易版など、関係者ごとに内容を分けた資料を用意すると効果的です。

防災マニュアルについて詳しくは、「防災マニュアルの作成方法とは?BCPとの違いや押さえるべきポイントも解説」で解説しています。

商業施設のBCPを効果的に運用するためのポイント

BCPは策定しただけでは意味がありません。実際の危機に機能させるための実践的なポイントを解説します。

社内・テナントへの周知

BCPを浸透させるには、従業員への継続的な教育が欠かせません。定期研修に加え、新入社員や部署ごとの勉強会などの機会を通じて理解を深めていきます。シフト制の現場では、パート・アルバイトにも計画的に教育の場を設けることで、全員への周知を図ります。

また、テナントに対しては、防災担当者を集めた定期的な説明会や連絡会議を開催し、施設全体での防災体制を共有します。商業施設においては、テナントとの連携がBCPの実効性を高めるうえで欠かせません。

定期的な訓練と見直し

BCPの実効性を高めるには、実践を想定した訓練が欠かせません。火災や地震、テロなど多様なシナリオに基づき、定期的な訓練を実施します。訓練後には振り返りを行い、明らかになった課題をBCPや防災マニュアルの見直しに反映させることで、計画の精度を高めていきます。

また、法令改正や新たなリスクの発生、施設の改修など、状況の変化にも柔軟に対応する必要があります。常に最新の情報と現場状況を踏まえて内容を更新し、実際の危機に有効な計画とすることが重要です。

商業施設のBCP対策で、安全・信頼の運営体制を構築

商業施設におけるBCP策定は、顧客の生命と企業の未来を守る重要な取り組みです。紹介した手順とポイントを参考に、自社施設に適したBCPを策定し、定期的な訓練と見直しを通じて実効性を高めていきましょう。万全のBCP体制は、顧客とテナントからの信頼獲得につながります。

ジョインテックスカンパニーでは、防災対策の基礎や実践ノウハウをわかりやすくまとめた「コラム – キキタイマガジン」でも情報発信中です。企業の防災対策に関心がある方は、ぜひチェックしてみてください。