断水による企業への影響とは?
災害に備えた具体的な対策を解説
企業活動ではあらゆる場面で水が不可欠です。
しかし、地震や台風などの災害時には断水のリスクが高まり、事業継続に大きな影響を及ぼす可能性があります。実際、2024年1月に発生した能登半島地震では13万戸以上が断水し、企業活動にも大きな支障が出ました。南海トラフ地震の発生が切迫していると指摘されるなか、広域的な断水への備えは企業にとって避けては通れない重要な課題といえるでしょう。本記事では、断水の起こる原因や過去の震災での被害状況を踏まえ、企業における実践的な断水対策について解説します。
目次
断水が発生する3つの主な原因
断水とは、水道からの給水が停止する状態を指します。一般的な水道システムは、まず川の水や雨水を貯水池に貯め、浄水場で浄水処理を行います。処理された水は配水池で一時的に貯水され、最終的に配水管を通じて各家庭へと供給されます。この供給システムが以下の要因により機能不全に陥ることで断水が発生します。
地震による配管破損
大規模な地震発生時には、地中の水道管に破断や接続部の緩みが生じる可能性が高まります。特に、耐震性能が十分でない古い管路や地盤の揺れが増幅されやすい地域では被害が集中する傾向にあります。
また、地震以外でも、豪雨による土砂崩れ、地盤沈下、道路工事の事故などさまざまな要因で配管が破損する場合があります。特に近年は気候変動の影響で、大雨や土砂災害が頻発しており、これらに起因する配管破損のリスクも高まっています。
地中に埋設された配管網は被害状況の確認にも時間を要するため、復旧までの期間が長期化することが想定されます。
停電による給水停止
浄水場やポンプ施設での停電は、広域的な断水を引き起こす要因となります。特に高層ビルやマンションでは、受水槽から各階への揚水にポンプ設備が不可欠です。非常用電源を備えていない場合、停電と同時に上層階への給水が停止することになります。近年の災害では、停電の早期復旧に比べ、断水の復旧に時間を要するケースが増加しています。
停電の企業への影響についは、下記の記事で詳しく解説しています。
水道管の老朽化・凍結
経年劣化による配管の腐食や破損は、突発的な断水の原因となります。また、冬季の厳しい寒波に見舞われた場合、配管内の水が凍結して膨張し、配管の破損につながることがあります。特に、保温対策が不十分な配管や、屋外に露出した配管では、凍結による断水リスクが高まる傾向にあります。
過去の大地震における断水被害の実態
断水の復旧は、電気などの他のライフラインと比較して長期化する傾向にあります。これは、地下に張り巡らされた配管網の被害状況確認に時間がかかることに加え、工事業者や資材の需要が集中することが主な要因です。
過去の大規模地震における断水被害の状況を見ていきましょう。
災害名 | 断水戸数 | 復旧までに要した期間 |
1995年阪神・淡路大震災 | 約126万戸 | 約3か月 |
2004年新潟県中越地震 | 約12.9万戸 | 約1か月でほぼ復旧 |
2011年東日本大震災 | 約256万戸 | 約6か月半 |
2016年熊本地震 | 約44.6万戸 | 約3か月半 |
2018年北海道胆振東部地震 | 約6.8万戸 | 約1か月 |
2024年 能登半島地震 | 約13.7万戸 | 約3か月でほぼ復旧(ただし早期復旧が困難な地区を除く) |
2024年日向灘地震 | 120戸 | 3日 |
※国の資料を基に作成
断水が企業に与える影響
一度断水が発生すれば企業の事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。ここでは、企業が直面する具体的な影響を解説します。
事業の停止
断水は製品・サービスの提供にも直接的な影響を及ぼします。例えば、製造業では、原材料の洗浄や冷却工程など、水を使用する工程が停止を余儀なくされます。飲食業やホテルでは、調理や客室での給水が不可能となり、営業継続が困難になります。
医療機関など水が事業の根幹に関わる施設では、より深刻な影響が想定されます。断水により適切な治療が行えず、人命にかかわる大きな影響を及ぼしかねません。
職場環境の悪化
断水が発生すると、企業の基本的な事業運営に大きな支障が出ます。トイレや手洗いなどの衛生設備が使用できなくなることで、従業員の労働環境が著しく悪化するでしょう。また、オフィスビルでは空調設備の停止により、室内の温度管理が困難となり、従業員の健康面や業務効率に深刻な影響を及ぼします。基本的なインフラ機能が失われることで、事業所の一時閉鎖を余儀なくされるおそれがあります。
事業中断の長期化
断水は、特に復旧時の対応にも大きな影響をもたらします。たとえば、消防設備については、断水復旧後もスプリンクラーや消火栓の点検が必要となり、安全確認が完了するまでは建物の使用が制限される場合があります。また、工場などでは、排水処理施設の復旧に加え、配管や処理槽の点検など、環境基準を満たすための手順を踏む必要があります。これらの対応により、事業の本格再開までさらなる時間を要することが想定されます。
企業が行うべき具体的な断水対策
企業の断水へ具体的な備えを解説します。企業の規模や業態に応じて優先順位をつけながら、段階的に対策を進めていくことが重要です。
第二水源の確保
井戸の設置や近隣河川の利用など、独自の第二水源の確保です。第二水源を確保することで、限られた水量だったとしても、自前で確保できれば、基本的な事業活動の継続が可能となります。井戸の設置には地盤調査や水質検査、自治体との協議など事前の準備が必要となります。
また、雨水を浄化して利用する雨水利用システムや、一度使用した水を処理して再利用する水再生設備の導入も選択肢の一つになるでしょう。これらの設備は、平常時の水道使用量の削減にも役立ちます。雨水タンクや雨水浸透ますの設置などの雨水利用の設備導入には、多くの自治体が助成金を設けています。
受水槽の設置・耐震化
受水槽は水道本管からの水を一時的に貯留する大型タンクです。適切な容量の受水槽があれば、断水時も一定期間の事業継続が可能となります。特に地下設置型の場合、地震の揺れの影響を受けにくいというメリットがあります。
既存の受水槽については、耐震性能の評価を行い、必要に応じて補強工事を実施することが求められます。また、停電時でも給水機能を維持できるよう、非常用電源の確保も重要です。これらは、正常に緊急時に機能するように、定期的な点検・清掃による維持管理を行いましょう。
災害用トイレの備蓄
従業員の衛生環境維持に欠かせないトイレ対策は、複数の備えを組み合わせることが効果的です。携帯トイレや簡易トイレの備蓄は、基本的な対策となります。従業員一人1日あたり5回の使用を想定し、最低3日分を確保しておくことが望ましいでしょう。
さらに、長期化に備えた対策として、仮設トイレのレンタル業者との協定締結やトイレカーの導入、マンホールトイレの設置なども検討することが重要です。特にトイレカーは、移動可能な水洗トイレとして、事業所の状況に応じて柔軟な対応が可能となります。
災害用トイレについては、下記の記事で詳しく解説しています。
保存水の備蓄
飲料水の確保も必要です。従業員一人あたり1日3リットルを目安に、最低3日分の保存水を確保するといいでしょう。保存水は複数の場所に分けて保管することで、一カ所が被災した場合のリスクを軽減することができます。在庫については、定期的な数量確認と賞味期限管理を確実に実施することが求められます。長期保存可能な製品を選定することで、更新作業の負担を軽減させることが可能です。
企業の防災備蓄については、下記の記事で詳しく解説しています。
これらの具体的な対策を実効性のあるものとするために、対応体制をBCPに明確に定めることが重要です。
BCPについては、下記の記事で詳しく解説しています。
断水対策は複数の方法を組み合わせることが重要
過去の大規模地震では広域的な断水が発生し、企業活動に大きな影響を及ぼしてきました。復旧工事には時間を要することから、企業には長期間の断水を想定した対策が求められます。企業の断水対策としては、第二水源の確保や受水槽の設置といったインフラ面の整備に加え、トイレや保存水の備蓄など、さまざまな方法があります。企業の規模や事業特性に応じて、これらの対策を組み合わせることが重要です。優先順位をつけながら計画的に進めることで、事業継続に向けた備えを強化することができます。
トイレや保存水など備蓄品の確保は、比較的着手しやすい対策のひとつです。ジョインテックスカンパニーでは、防災用品を中心に約1,400アイテムを掲載した「危機対策のキホン」カタログをご用意しております。企業の防災対策のために、ぜひご活用ください。
参考: