【飲食・小売店舗のBCP】重要性や策定手順、効果的に運用するポイントを解説

飲食業や小売業などで複数の実店舗を展開・統括する企業では、地震や台風などの自然災害、感染症の流行、サプライチェーンの寸断といったリスクにより、一部店舗の被災が全体の業務継続に影響を及ぼす可能性があります。こうした事態が発生した際、事業へのダメージを抑えるには、BCP(事業継続計画)の策定が不可欠です。本記事では、飲食・小売店舗におけるBCPの重要性から、リスクの種類、BCP策定手順、効果的な運用のポイントまで、幅広く解説します。

店舗にBCPが求められる理由

店舗を展開する企業にとって、災害や感染症などの緊急事態は、営業停止や信用失墜といった深刻な影響をもたらします。こうしたリスクに備えるため、BCP(事業継続計画)が重要な役割を果たします。店舗にBCPが求められる理由は次の通りです。

事業継続のため

緊急事態が発生した際にも事業を継続し、企業としての存続を確保することがBCPの第1の目的です。営業停止が長期化すれば、売上損失だけでなく、顧客や取引先からの信頼低下、従業員の離職といった二次的なダメージも発生します。BCPを整備することで、迅速な復旧体制を構築し、企業全体の事業継続性を高めることが可能です。

従業員と顧客の安全確保

緊急事態が営業時間中に発生した場合、多くの顧客と従業員が店舗にいる状況下で適切な避難誘導や初動対応が求められます。BCPに安全確保の手順を明確に定めることで、従業員が冷静かつ迅速に行動でき、人的被害の最小化につなげられます。

BCPを策定・運用していく一連の取り組みをBCP対策と呼びます。

BCP対策については、「BCP対策とは?基礎知識から策定手順、運用のポイントまでわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

店舗が直面する主なリスク

店舗が直面するリスクは、立地や業態によってさまざまです。ここでは、店舗が特に注意すべきリスクについて解説します。

自然災害(地震・水害・台風)

自然災害は、店舗の建物や設備に直接的な損害を与えるだけでなく、交通網の寸断により従業員の出勤や商品配送が困難になるなど、営業継続に多大な影響を及ぼします。特に地下や低地にある店舗は浸水リスクが高く、商品や電気設備の損失により長期休業を余儀なくされるケースも少なくありません。

自然災害について詳しくは、「自然災害の種類と特徴とは?企業活動への影響や取り組むべき対策を解説」で解説しています。

火災・爆発事故

店舗における火災は、建物や商品、設備の焼失という直接的な被害だけでなく、人命に関わる重大なリスクです。飲食店では調理場での火災、小売店では電気設備や暖房器具からの出火、倉庫では可燃物への引火など、さまざまな出火原因が考えられます。近隣店舗への延焼や煙による被害拡大のリスクにも注意が必要です。

感染症・食中毒などの衛生リスク

感染症や食中毒は、店舗運営に長期的かつ深刻な影響をもたらします。感染症の流行により営業時間の短縮や休業を余儀なくされた場合、売上の大幅減少になるでしょう。従業員が感染した場合には、人員不足も懸念されます。

また、飲食店や食品を扱う小売店では、クラスター発生や食中毒による営業停止、さらには風評被害の影響も深刻です。

インフラ障害・設備の劣化

近年は、老朽化したインフラによる突発的な障害が増加しています。たとえば、道路の陥没で店舗へのアクセスが断たれる、水道管の破裂による断水、電力網のトラブルによる停電などは、いずれも店舗の営業に直接的な影響を及ぼします。

ITシステムの停止

現代の店舗運営は、POSシステムや在庫管理システム、キャッシュレス決済システムなど、多くのITシステムに依存しています。これらが障害やサイバー攻撃により停止すれば、会計処理や受発注ができず、店舗営業そのものが不可能になります。

サプライチェーンの寸断

店舗にとって、安定した商品供給は事業の生命線です。製造元の被災、物流網の混乱、港湾機能の停止などにより仕入れが止まれば、たとえ店舗自体が無事でも営業は継続できません。生鮮食品や日配品を扱う業態では特に影響が大きく、単一のサプライヤーに依存している場合、代替調達が困難になるおそれがあります。

店舗のBCP策定手順

店舗を運営する企業がBCPを効果的に策定するには、全社的な視点と、各店舗の状況に応じた柔軟な運用を両立できる仕組みが求められます。ここでは、具体的な策定手順を解説します。

1. 対象事業を絞る

緊急時にすべての業務を同時復旧させることは困難です。店舗では「従業員と顧客の安全確保」が最優先事項となり、次に段階的な営業再開の計画を立てます。販売業務、決済処理、在庫管理など、売上に直結する重要業務から優先的に復旧させる必要があります。

チェーン展開している場合は、地域の生活インフラとして不可欠な店舗や、売上貢献度の高い基幹店舗を優先復旧対象とすることも検討します。

2. リスク分析をする

店舗において、地震や台風、火災、停電、感染症拡大、サイバー攻撃、食中毒など、事業が中断するおそれのあるあらゆるリスクを洗い出します。各リスクの発生可能性と影響度を分析します。影響度は、売上損失の規模、復旧に要する期間、顧客・従業員への被害の大きさなどの観点から評価します。

リスクを具体化することも重要です。例えば地震の場合、什器の転倒、商品の落下、ガラスの飛散、停電によるPOSシステム停止など、実際に何が起こるかを想定します。飲食店や食品を扱う小売店では、停電時の冷蔵・冷凍設備停止による商品廃棄リスクや、断水時の衛生管理維持の困難さも検討事項です。

店舗の地震対策については詳しくは「店舗の地震対策とは?被害の種類、飲食・小売店が実施すべき備えを解説」で解説しています。

また、営業時間中に災害が発生した場合を最悪シナリオとし、平日と休日、昼間と夜間など複数のシナリオを用意します。リスク分析は、地域性や立地(駅ナカ、郊外、商業施設内など)によってリスクの種類や優先度が異なるため、各店舗単位で実施することが重要です。

商業施設のBCPについては、「【商業施設のBCP】重要性や策定手順、効果的に運用するポイントを解説」で詳しく解説しています。

なお、自然災害の発生リスク把握には、各自治体が公開するハザードマップの活用が有効です。

詳しくは、「【企業の防災対策】ハザードマップの具体的な活用方法は?その注意点も解説」で解説しています。

3. 事前対策を検討する

想定される被害に対して、事前対策を具体的に検討します。店舗における対策は、大きく3つの領域に分けられます。

  • 設備・インフラ面の対策

災害時に顧客・従業員が店舗に一定期間留まることを想定し、防災備蓄品として非常用電源や保存水、非常食、簡易トイレなどを準備します。什器の転倒防止、ガラス飛散防止フィルムの貼付など、店舗内の安全対策も重要です。

飲食店や食品を扱う店舗では、停電時の冷蔵・冷凍商品の保管方法(保冷剤の活用、近隣店舗への移送先確保)や、断水時の手洗い・消毒手段(アルコール消毒液、ウェットティッシュ、手袋の備蓄)についても、事前に検討しておく必要があります。

備蓄品の整備について詳しくは、「企業における防災備蓄品 必要量の目安と選定のポイントは?」や「発電機と蓄電池の違いは?特徴、非常用電源としてどちらを選ぶべきかを解説」で解説しています。

  • 運営体制の対策

緊急時の責任者と代理責任者を複数設定し、各スタッフの役割分担を明確化します。本部との連絡体制、取引先・警察・消防との連携体制を構築しておきます。感染症発生時の代替要員確保ルールや、クラスター発生時の自主休業判断基準も事前に定めておく必要があります。

  • システム面の対策

POSデータや顧客データはクラウドにバックアップし、システム障害時でも営業継続が可能な体制を整えます。通信手段については、携帯電話、衛星電話、業務用チャットなど複数の手段を用意し、本部・各店舗間の連絡や従業員の安否確認に活用します。

4. BCP・防災マニュアルを作成する

これまでの検討内容をBCPとして文書化します。全社統一の方針を定めつつ、各店舗の立地・業態に応じて柔軟に対応できる内容にすることが重要です。

さらに、BCPに基づいた具体的な行動指針として防災マニュアルも作成します。防災マニュアルでは「誰が・何を・どうするか」を明確に記載します。例えば、「店長は顧客の避難誘導を最優先する」「副店長は本部への第一報を入れる」といった具体的な役割分担を定めておきます。

全店舗共通の基本マニュアルに加え、店舗別マニュアルも整備し、店舗個別の状況に合わせることも必要です。

防災マニュアルについて詳しくは、「防災マニュアルの作成方法とは?BCPとの違いや押さえるべきポイントも解説」で解説しています。

店舗のBCP策定・運用を効果的に行うポイント

BCPは策定して終わりではなく、実際に機能するよう運用していくことが重要です。ここでは、店舗のBCPを実効性のあるものにするための運用上のポイントを解説します。

定期的な訓練と見直し

BCPの実効性を高めるには、定期的な訓練が不可欠です。定期的に避難訓練や安否確認訓練、本部・店舗間の連絡訓練などを実施し、防災マニュアルに記載された手順が実際に機能するかを検証します。訓練を通じて発見された課題は速やかに改善し、PDCAサイクルを回すことが重要です。

また、事業環境の変化や新たなリスクの顕在化に応じて、最低でも年1回は全体的なレビューを行い、内容が現状に即しているかを確認しましょう。

従業員への周知

BCPやマニュアルがいくら充実していても、従業員がその内容を理解していなければ意味がありません。新入社員研修や定期研修を活用し、全従業員がBCPに定めた対応手順を把握できるようにします。特に店舗では、パートやアルバイトを含む多様な雇用形態の従業員が働いているため、誰もが理解できる平易な表現でマニュアルを作成し、バックヤードの掲示物、携帯用ガイドなど多様な周知方法を活用します。

店舗のBCP策定により事業継続力を高めよう

店舗が直面するリスクは、自然災害、火災、感染症、食中毒など多岐にわたります。店舗にとって、これらに備えるBCPの策定と運用は、企業の存続を左右する経営課題であると同時に、顧客や従業員の安全を守るうえで重要です。全社視点の統一した方針と、店舗ごとの状況に即した方針のバランスを保ちながら、実効性ある体制を構築することが求められます。

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