避難所でのプライバシー対策はなぜ重要?備えておくべき環境づくりのポイント

災害時、帰宅困難者対策のため従業員をオフィスに留まらせるのが基本となっていることや、行政から一時避難所として指定されているケース、地域への支援を目的として、企業のオフィスが避難所として活用されるケースは珍しくありません。しかしその一方で、避難者のプライバシーをどう守るかという視点は十分に対策が取られていないことが多く、災害時の大きな課題となっています。
大空間の雑魚寝によるストレス、授乳や着替えの場所不足、防犯・衛生面の不安──これらは避難所運営の質を左右するだけでなく、企業のリスク管理にも直結します。 本記事では、避難所で起きやすいプライバシーの問題と、その対策をどのように企業の防災計画に組み込んでいくかを、わかりやすく解説します。
目次
避難所におけるプライバシー問題の実態
災害時に表面化したプライバシーの欠如
日本の避難所では、広い体育館や公民館に多くの人が集まるため、どうしても生活空間が密集しがちです。仕切りがない状態での“雑魚寝”は今も一般的で、過去の災害ではこうした環境が大きなストレスにつながってきました。
たとえば、東日本大震災や熊本地震では、着替えや授乳といった日常の行為すら周囲の視線が気になり、落ち着いて行えない状況が長期間続いたことが報告されています。また、照明の明るさ、周囲の声や物音、夜間の出入りなど、環境要因も心身の負担を大きくする要因となりました。
2024年の能登半島地震では、体育館内に世帯ごとのテントを設ける試みが行われ、プライバシー確保の重要性があらためて注目されました。内閣府の調査でも「プライバシーの確保」を不安材料に挙げる人は6割を超え、物資確保と並ぶ大きな課題として認識されています。
オフィスを避難所として使う際に生じるプライバシー課題
災害時には、オフィスが一時的な避難場所として活用されるケースがあります。このとき、通常の業務空間に多くの人を受け入れるため、どうしてもプライバシー面の課題が生じやすくなります。
普段の職場では男女が同じ空間で働いていることが多いため、避難時には着替え・休息・仮眠のための配慮されたスペースが必要になります。特に、女性特有の着替え・授乳・生理用品処理などについては、周囲の目を気にせず過ごせる場所の確保は欠かせません。
また、地域防災協定を結んでいる企業では、一般住民を受け入れる場面も想定されます。多数の避難者が集まる状況では、「どこまで個別スペースを確保できるか」「どのように分けて案内するか」といった運営面の工夫も求められます。施設を開放する側として、安心して滞在できる環境を整えることが重要です。
プライバシーが確保されないことで生じるリスク
プライバシーが守られない避難環境には、いくつかの重大なリスクがあります。ここでは特に影響の大きい3つをまとめます。
心身の不調が生じやすくなる(メンタルヘルスの悪化)
周囲の視線や音を常に意識しながら過ごす環境は、緊張や不安を生み、睡眠不足や体力低下につながります。避難生活が長引くほど、ストレスは蓄積しやすくなります。
感染症が広がりやすくなる
仕切りがない大空間では、飛沫が拡散しやすく、体調不良者の影響が周囲に及びやすくなります。コロナ禍以降、プライバシー確保は感染対策としても欠かせない視点となりました。
防犯上のトラブルが起きやすくなる
盗難や性被害など、個別空間がないことによる危険が指摘されています。とくに夜間は注意が必要で、安心して休める環境をつくるうえでも、一定のプライバシー確保は不可欠です。
避難所でプライバシーが必要になる場面
就寝・休息時の視線と騒音への配慮
避難所で最も長く過ごす時間が「就寝・休息」です。しかし、仕切りのない広い空間では、視線や音が気になって十分に休めないという声が多く聞かれます。睡眠を妨げる主な要因には、次のようなものがあります。
周囲の視線による心理的ストレス
体育館のような大空間では、常に“人に見られている”感覚があり、リラックスしづらくなります。
生活音・人の動き
家族の話し声、子どもの泣き声、夜間の移動音などが絶えず響き、眠りを妨げます。
照明の問題
避難所全体で一斉に照明を暗くすることは難しく、寝たい人・起きている人が同じ空間で過ごすため光の刺激が残ります。
さまざまな音や光、周囲の視線が重なると、どうしても眠りが浅くなりがちです。その結果、十分に休めず疲れが取れにくくなるだけでなく、免疫力の低下や判断力の衰えといった問題につながることもあります。
こうした負担を減らすには、視線や光を遮り、少しでも音を和らげられる環境づくりが欠かせません。間仕切りや簡易テントがあるだけでも、自分のペースで休める“落ち着ける空間”が生まれ、避難生活の過ごしやすさが大きく変わります。
着替え・授乳・生理用品処理などの日常行為
普段は何気なく行えることが、避難所では大きな困難となります。
着替えがしづらい環境
更衣スペースが確保されていない避難所では、男女が同じ空間にいるため、多くの人が着替えに抵抗を感じます。プライバシーを守れる場所が見つからない場合、「外のトイレで着替える」「車の中で服を替える」といった行動に頼らざるを得ません。これらは天候や夜間の安全面にリスクがあるだけでなく、長い距離を移動する負担も伴います。
授乳のストレス
授乳中の女性にとって、周囲の視線を気にせず過ごせるスペースがあるかどうかは非常に重要です。人が多い場所で授乳することに抵抗を感じると、授乳のタイミングをずらしたり、やむを得ず粉ミルクに切り替えたりするケースもあります。こうした負担は母親の精神的ストレスにつながるだけでなく、母子の健康にも影響を及ぼす可能性があります。
生理用品の処理の困難さ
生理用品を共用のゴミ箱に捨てることに抵抗を感じる人は多く、「周囲に知られたくない」という思いから処理をためらう場面もあります。適切な処理場所がないまま避難生活が続くと、衛生面の不安や心理的な負担が大きくなりやすく、小さな問題に見えても当事者にとっては深刻なストレスとなります。
体調不良者・感染症対策のための隔離スペース
災害時には、体調を崩した人や感染症の疑いがある人を安全に隔離できる場所が必要になります。適切なスペースを確保できないと、周囲の避難者に影響が広がりやすく、避難所全体の安心感を大きく損なってしまいます。
新型コロナウイルスの流行以降、避難所でも感染対策の視点が欠かせないことが広く知られるようになりました。発熱や咳などの症状がある人を大空間の中で過ごさせると、集団感染が起こりやすくなるため、一般の避難者とは分けて対応する必要があります。
プライバシー確保に必要な対策と設備
避難所で安心して過ごしてもらうためには、個々の空間をつくる設備と、その運用方法を事前に整えておくことが欠かせません。ここでは、実際に準備する際に押さえておきたい設備の選び方や、導入量の考え方、保管・管理のポイントをまとめます。
間仕切りテント・パーテーションを選ぶときのポイント
避難所でプライバシーを守るうえで、間仕切りテントやパーテーションは最も導入効果の高い設備です。選ぶ際は、次の点を基準にすると使いやすい備蓄になります。
設置のしやすさ
災害時は、初めて扱う従業員が設置するケースも多いため、ワンタッチ式・ポップアップ式など、短時間で組み立てられるタイプが便利です。
収納性とコンパクトさ
普段は備蓄として保管するため、限られたスペースにも収まりやすいサイズかどうかを確認します。
連結・拡張のしやすさ
家族単位・個人単位など、避難者の人数や構成に合わせて柔軟に広げられる製品が使いやすく、運営側の負担も減ります。
視線を遮れる素材かどうか
外から透けない素材であることは必須ですが、避難者の様子を確認できるよう、小窓や開閉部があるものなら安心感も高まります。
通気性や衛生面の配慮
長期間の使用を想定し、通気がよく、カビやにおいが発生しにくい素材が望ましいです。洗濯や消毒がしやすいタイプなら衛生管理もスムーズです。
施設規模や用途に合わせた導入数量の考え方
必要なテントやパーテーションの量は、想定する避難者数や施設の用途によって変わります。
たとえば、帰宅困難者対策として従業員を社内に留める場合は、最低限、男女別の着替え・休息スペースを設けられるだけの数量が必要です。全員が同時に使用するわけではないため、大きめのテントを複数人でローテーションしながら使用することで対応できます。
地域住民を受け入れる場合は、さらに多くの設備が必要になります。また、大規模オフィスでは各フロアに分散して備蓄しておくことで、災害時にすぐ取り出せます。
保管場所の確保と管理体制のつくり方
プライバシー確保のための設備は、いざという時にすぐ取り出せる場所に保管しておくことが重要です。防災倉庫や避難経路付近など、避難時の動線を意識した配置にしておくと、混乱の中でもスムーズに取り出せます。
保管する際は、防火設備の妨げにならないよう配慮する必要があります。たとえば、避難経路をふさがないことや、スプリンクラー・火災報知器の作動を妨げない位置に置くことが大切です。
管理面では、年に1~2回の防災訓練の実施と併せて、設置・組立についても行い、破損や劣化の点検、必要量の確認を兼ねると良いでしょう。備蓄品管理ツールを活用すれば、保管場所・数量・点検履歴をまとめて把握でき、更新のタイミングも見逃しにくくなります。
防災備蓄品の収納方法や管理については、「備蓄品を適切に収納するコツは?オフィス備蓄に役立つアイテムも紹介」で詳しく解説していますので、ご参考にしてください。
プライバシー確保とあわせて準備しておきたい備蓄品
間仕切り設備だけでなく、プライバシーに関わる日用品を整えておくことで、避難生活の負担を大きく減らせます。
着替えや衛生用品
下着や靴下などの着替え、生理用品、おむつ、ウェットティッシュなどを備蓄します。特に生理用品は、想定より多めに備蓄しておくと安心です。
簡易トイレと目隠しポンチョ
断水時には通常のトイレが使用できなくなるため携帯トイレや簡易トイレが必要です。目隠しポンチョがあれば屋外や共用スペースでの着替えやトイレ使用時にプライバシーを確保できます。
授乳ケープやタオルケット
授乳中の女性が安心して過ごせるよう、簡単に使える目隠しアイテムを準備します。
エアマット・簡易ベッド
床面が硬い避難所では、横になるだけでも体への負担が大きくなります。エアマットや簡易ベッドがあると、睡眠の質が上がり、疲労や体調不良を防ぎやすくなります。
防災備蓄品の選び方や管理方法のポイントについては、「備蓄品管理はなぜ重要?管理を効率化するためのポイントと手法とは」で詳しく解説していますので、ご参考にしてください。
プライバシー対策を防災計画に組み込む方法
社内の防災計画へ取り入れる方法
プライバシー確保の取り組みを形だけで終わらせないためには、社内の防災計画やBCP(事業継続計画)に明確に位置づけることが欠かせません。まずは、従業員の安全確保が事業継続の前提であることを、経営層や関係部署と共有するところから始めます。
帰宅困難者対策マニュアルには、下記項目を具体的に記載しておくと、実際の災害時に迷わず動けます。
- プライバシー確保設備の保管場所
- 設置の手順
- 運用時のルール
地域住民を受け入れる可能性がある場合は、避難所運営マニュアルの整備も必要です。受付方法から誘導の流れ、スペースの割り当て、プライバシーに配慮したエリア分けまで、一連の運営手順を文書化しておくことで、現場の混乱を防げます。
地域防災協定を締結する際のポイント
自治体と地域防災協定や災害時応援協定を結ぶ際には、プライバシーに関わる内容もあらかじめ協定書に盛り込んでおくことが大切です。どのような体制で避難者を受け入れるのかを事前に明確にしておくことで、災害時の混乱を防ぐことができます。
まずは、受け入れられる人数と利用可能な施設の範囲を明確にし、避難者がどのスペースを使えるのかを事前に自治体と共有しておきます。
また、間仕切りテントの準備数や、更衣スペース・授乳スペースの設置可否といった設備面の情報も合わせて伝えておくと、自治体が避難所運営の計画を立てやすくなります。具体的な設備の整備状況を共有しておくことで、受け入れ側と自治体の双方が同じ前提で準備を進められるようになります。
企業の防災力向上とプライバシー対策の両立を
避難所でプライバシーを確保することは、被災者の心身の健康を守り、避難生活の負担を和らげるために欠かせません。企業が従業員の帰宅困難者対策や地域への支援として施設を開放する場合も、安心して過ごせる環境づくりは大切な責任のひとつです。
間仕切りテントやパーテーションの導入には一定の費用がかかりますが、従業員のメンタルヘルスや感染症対策、企業としての社会的責任を考えると、長期的には大きな価値があります。設置しやすく保管しやすい製品を選び、日頃の防災訓練で使い方を確認しておくことで、実際の災害時にも確実に機能する備えになります。
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