停電時の暑さ対策とは?熱中症予防のためにオフィスで実践すべき方法を解説

猛暑が続く夏場、万が一オフィスで停電が発生すれば、室温の上昇によって従業員が熱中症に陥るリスクが一気に高まります。特に、エアコンが停止することで、室内の温度管理が難しくなり、業務の継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、こうした状況に備える暑さ対策は、企業のBCP(事業継続計画)においても優先度の高い課題といえるでしょう。
本記事では、オフィスで暑さ対策が求められる背景とともに、効果的な対策を「事前の備え」と「発生時の対応」に分けて具体的にご紹介します。
目次
停電時の暑さ対策が企業に求められる理由
停電発生を想定した暑さ対策が求められる理由には、以下のことが挙げられます。
熱中症リスクの増加
夏場の停電でまず懸念されるのが、空調設備の停止による室内温度の急上昇です。
現代のオフィスビルは、ガラス面積が大きく窓の開かない密閉構造が多いため、室温が上がりやすく熱がこもりやすい環境となっています。このような暑熱環境(高温・多湿で風通しが悪く、体温が上昇しやすい環境)での作業は、熱中症の危険性を高めます。重症化すると生命に関わる事態になりかねません。
また、停電により水分補給用の冷蔵庫や製氷機も使用できなくなるため、適切な水分・塩分補給が困難になる点も見過ごせません。職場環境の悪化は、従業員の健康被害だけでなく、業務の中断や生産性の低下といった事業継続への深刻な影響につながります。
企業の停電対策については、「停電に対する企業の備えとは?損失を回避するための対策を解説」で詳しく解説しています。
熱中症対策の義務化
2025年6月から施行された労働安全衛生規則の改正により、事業者には労働者の熱中症を防ぐための具体的な対策が義務付けられました。違反時には、罰則も科されます。
この改正では、WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境下で一定時間以上作業を行う場合、熱中症患者の報告体制の整備や悪化防止措置の準備とその周知が必要とされています。WBGTとは、熱中症の危険度を測る指標で、気温だけでなく湿度や輻射熱(ふくしゃねつ)も考慮した体感温度に近い数値です。停電が発生すると、オフィス内でも空調停止により室温が急上昇し、短時間でこの基準に達する可能性があります。
停電時には通常の空調や冷却機器が使用できず、従来の熱中症対策が機能しなくなるため、電源に依存しない暑さ対策をあらかじめ整えておくことが重要です。
参考
労働安全衛生規則の一部を改正する省令案について(概要)|e-Gov
職場における熱中症対策の強化について|厚生労働省 [PDF]
停電時の暑さ対策【事前の備え】
停電が発生してから慌てて対応しようとしても、できることは限られます。あらかじめ、次のような備えを整えておくことが重要です。
非常用電源の確保
企業が停電時の暑さに備えるためには、計画的な電源確保が不可欠です。非常用電源には、発電機や蓄電池、UPS(無停電電源装置)、モバイルバッテリーなど複数の選択肢があります。
重要業務用のコンピューターやサーバー、最低限の照明や扇風機を動かすための電源容量を算出し、適切な設備を準備しましょう。太陽光発電パネルと組み合わせたシステムも、長期停電に備える有効な選択肢です。
発電機や蓄電池について詳しくは、下記の記事で解説しています。
企業が蓄電池を導入するメリットとは?災害時以外の活用方法も紹介」
発電機と蓄電池の違いは?特徴、非常用電源としてどちらを選ぶべきかを解説
熱中症対策グッズの備蓄
停電時に備えて、以下の熱中症対策グッズを計画的に準備しておきましょう。
- 水分補給用品: 経口補水液、ミネラルウォーター、スポーツドリンク、塩分タブレット
- 冷却アイテム: 冷感タオル、冷却ベスト、冷却スプレー、保冷剤
- 送風機器: バッテリー式扇風機、手動うちわ、USB充電式携帯ファン
- 保冷用品: クーラーボックス、大型保冷剤、断熱シート
- 遮熱用品: 窓用遮熱シート、日よけすだれ、アルミシート
- 環境測定機器: 熱中症指数計、温湿度計
通常の防災備蓄品に加えて、これらの暑さ対策グッズを用意しておくことで、停電時の熱中症リスクを効果的に軽減できます。定期的に在庫と使用期限を確認し、必要に応じて補充・更新することが大切です。
防災備蓄品については、「企業における防災備蓄品‐必要量の目安と選定のポイントは?」も参考になります。
BCP(事業継続計画)への組み込み
これらの暑さ対策を業務継続計画(BCP)に明確に組み込むことが重要です。停電時の業務優先順位、電源配分計画、従業員の安全確保手順などを文書化し、全従業員に周知します。
また、在宅勤務への切り替え基準や代替オフィス確保なども計画に含めることで、停電の影響を受けるエリアから離れて業務を継続できる体制を整えられます。定期的な訓練や備品の更新も忘れずに実施しましょう。
BCPについては、「BCP対策とは?その目的と取り組む際の流れを解説」で詳しく解説しています。
停電時の暑さ対策【発生時の対応】
実際に停電が発生した際の暑さ対策を紹介します。
室内の換気
停電発生時はまず室内環境の悪化を最小限に抑える対応が必要です。窓やドアを開けて風の通り道を作り、自然換気を促進しましょう。
ただし、セキュリティにも配慮し、開放する場所と担当者を事前に決めておくことが重要です。オフィスレイアウトを考慮した風の流れを作ることで、室温上昇を効果的に抑制できます。
日光の遮断
直射日光を遮ることで、室内の温度上昇を抑えることができます。特に夏場は、窓からの強い日射によって室内に大量の熱が入り込むため、効果的な遮光対策が欠かせません。
基本となるのは、ブラインドやカーテンの活用です。日差しの強い時間帯にはしっかり閉め、太陽の位置に合わせて調整することで、遮熱効果を高められます。
また、西日が差し込む窓などには、アルミシートや段ボールを貼るといった緊急的な遮光も有効です。窓の種類や方角に応じた対策をあらかじめ検討しておきましょう。
涼しいエリアの活用
オフィス内には、比較的気温が上がりにくい涼しいエリアが存在します。たとえば、地下フロアや北向きの部屋、大理石などの冷たい床材が使われている場所は、他のエリアに比べて温度上昇が緩やかです。
停電時には、こうした場所に従業員を一時的に集めることで、限られた冷感グッズや飲料水を効率的に使い、熱中症リスクを集中管理することができます。
平常時から社内の「クールスポット」を把握し、非常時の一時避難場所としてあらかじめ指定しておくと安心です。
水分・塩分補給の実施
停電時の暑熱環境では、水分と塩分の補給が従業員の命を守る最優先事項です。高温下では大量の汗とともに水分・塩分が失われ、脱水や熱中症のリスクが高まります。定期的に水分補給の時間を設け、備蓄している飲料水や経口補水液を全員に配布しましょう。あわせて、塩分タブレットや塩飴などの補助食品も活用すると効果的です。
特に、高齢者や持病のある従業員には、こまめな声かけと体調確認を行い、早期の体調変化に気づける体制を整えておくことが大切です。
冷却アイテムの活用
体温の上昇を抑えるために、冷却グッズを効果的に活用しましょう。冷感タオルや保冷剤などは、首元・脇の下・足の付け根といった太い血管の通る部位を冷やすことで、効率的に体温を下げられます。使い捨ての冷却シートや冷却ベストなども、備蓄状況を確認しながら計画的に配布・共有するといいでしょう。
業務継続の判断
停電中の業務は、電源リソースの状況に応じて優先順位をつけて対応する必要があります。バッテリーの残量や発電機の燃料を確認し、重要度の高い業務から順に対応を進めましょう。使用時間の記録や、電力消費の見通しを立てることも有効です。長時間の停電が見込まれる場合は、BCPに沿って、代替オフィスへの移動や在宅勤務への切り替えなどを速やかに判断します。
また、顧客や取引先との連絡体制をあらかじめ整備しておくことで、緊急時にも信頼を損なわず、適切な対応が可能になります。
オフィスと同様に、工場でも暑さによるリスクは深刻です。工場の暑さ対策については、「工場の暑さ対策とは?熱中症予防のために実践すべき具体的な方法を解説」で詳しく解説しています。
停電時の暑さ対策は平時からの備えが必要
夏場の停電は、事前の備えと、停電発生時の適切な対応が欠かせません。平時から対策を準備し、BCPに組み込んでおくことで、突然の停電にも冷静かつ的確に対応できる体制を整えることができます。
ジョインテックスカンパニーでは、暑さ対策に役立つアイテムをはじめ、約1,400アイテムの防災用品を掲載した「危機対策のキホン」カタログを無料でご提供しています。企業の防災担当者様向けに個別相談も承っておりますので、この夏の停電対策にぜひお役立てください。