【業種別】BCP対策の事例5選|実効性を高めるためのポイントを解説

地震や台風などの自然災害に加え、感染症やサイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクは多様化の一途をたどっています。こうした不測の事態に備えるうえで欠かせないのが、BCP対策です。しかし、「BCPの必要性は理解しているけれど、具体的に何をどう進めればいいのか分からない」とお悩みの経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、BCP対策の事例を業種別に紹介します。あわせて、BCP対策の進め方や成功のポイントをわかりやすく解説します。
目次
BCP対策とは
まずは、BCP対策の基本的な定義と、なぜ今注目を集めているのかについて確認しておきましょう。
BCP対策の定義
BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。これは、地震や台風といった自然災害やサイバー攻撃など、予期せぬ事態が発生した際にも、企業の重要な業務を継続し、できるだけ早く通常の状態に戻すための計画を指します。
人材・設備・情報といった経営資源をいかに守り、どのような代替手段を講じるかを平時から整理・準備しておくことが目的です。
そして「BCP対策」とは、この計画を実際に策定し、社内で機能する仕組みとして運用していく一連の取り組みを指します。企業防災の一部として捉えられることもありますが、単なるリスクの回避ではなく、「事業を止めない・早く立ち上げる」ことに重点を置いている点が特徴です。
BCP対策については、「BCP対策とは?基礎知識から策定手順、運用のポイントまでわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
なぜ今BCP対策が注目されているのか
近年、地震や豪雨といった自然災害に加え、感染症の流行やサイバー攻撃、サプライチェーンの混乱など、企業活動に影響を与えるリスクが多様化・激甚化しています。
特に喫緊の課題となっているのは、大規模地震のリスクです。今後30年以内に70~80%の確率で発生するとされる南海トラフ地震や首都直下地震は、甚大な被害が予想されます。
こうした予測困難な事態に直面したとき、被害を最小限に抑え、早期に事業を再開できるかが企業の信頼性や存続を左右します。
また、取引先や投資家からも「BCPの有無」が評価対象となる場面が増えています。
このような背景から、BCP対策は今や業種や企業規模を問わず欠かせない経営課題となっています。
【業種別】BCP対策の事例
実際に各業種でどのようなBCP対策が実施されているのか、具体的な事例を紹介します。
【製造業のBCP対策】パナソニック ホールディングス株式会社
パナソニック ホールディングス株式会社は、グループ全体に影響を及ぼす緊急事態発生時の対応体制を整備しています。2022年度には南海トラフ地震および首都直下地震の最新被害想定を織り込んだBCPガイドラインを改定しました。特徴的なのは、事業場単位のBCPに加えて、調達・物流・IT等の機能ごとに特化したBCPを策定している点です。
過去の災害で電力需給がひっ迫した経験を踏まえ、非常用電源設備の整備を進めました。また、各拠点の被災状況を一元的に把握できる「災害ポータル」の運用も開始し、グループ全体の災害対応力強化を図っています。さらに、南海トラフ地震を想定したグループ防災訓練は、毎年継続的に実施されています。
参考:リスクマネジメント – ガバナンスの取り組み – サステナビリティ – パナソニック ホールディングス
【情報通信業のBCP対策】ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社は、「災害対策基本法」に基づく国の指定公共機関として、防災業務計画を策定し災害の予防から発生時の対応まで一貫した体制を整備しています。
社内では災害対応マニュアルを徹底するとともに、緊急連絡網を整備し、非常用発電機や飲料水、食料などの防災備蓄品を全国の拠点に配備しました。災害発生時には緊急対策本部を速やかに設置し、被災地域の通信ネットワークを迅速に復旧する体制を整えています。
毎年大規模災害を想定した全社規模の総合防災訓練と各地域の特性に応じた訓練を実施し、訓練結果をもとにした継続的な改善でBCPの実効性向上に取り組んでいます。
参考:防災・減災への取り組み | 企業・IR | ソフトバンク
【物流業のBCP対策】株式会社ヒサノ
熊本県と福岡県に拠点を置く株式会社ヒサノは熊本地震の教訓から、災害時に事業を継続し地域を支援する体制を整えるためのBCPを策定しました。
事務や受発注データをすべてクラウド化し、本社が被災しても複数拠点から業務を再開できる仕組みを構築しています。停電対策として、停電後30秒で自動起動する自家発電機や地下水を利用できる給水装置を備え、長期の電力・水供給を想定しています。
倉庫はハザードマップをもとに立地を選定し、普段は物流拠点として活用しながら、被災時には地域住民が避難できる防災拠点として機能するよう十分なスペースや設備を整えています。さらに、災害用自動販売機を設置し、停電時でも飲料を無償提供できる仕組みを用意するなど、地域の安心にも貢献しています。
参考:大切なビジネスを守る事例集|経済産業省九州経済産業局 [PDF]
【介護業のBCP対策】特別養護老人ホームリブ丸山(社会福祉法人柚子の会)
千葉県南房総市にある特別養護老人ホームリブ丸山では、2019年の房総半島台風によって、1週間にわたる停電と断水を経験しました。非常用電源は半日で燃料が尽き、給水ポンプも停止したため、水の確保が困難となり、利用者が熱中症に陥るリスクにも直面しました。この出来事をきっかけに、BCP(事業継続計画)の必要性を強く認識するようになったといいます。
同施設の独自の取り組みとして、「電力使用リスト」を作成しています。これは電源車による支援を受けた際、「どのくらいの電力が必要ですか」と尋ねられた経験から生まれたものです。設備ごとの使用電力をリスト化し、将来的な発電機増設の検討材料としても活用しています。
BCPには、備蓄品の保管場所や関係機関の連絡先を明記し、平常時の業務にも役立つ内容を盛り込んでいます。さらに、災害時に必要な書類一式を箱にまとめて保管し、誰でもすぐに行動できる体制を整えています。
参考:介護事業所における 自然災害経験を活かしたBCP(業務継続計画)の策定|公益財団法人 介護労働安定センター [PDF]
【小売業のBCP対策】株式会社セブン&アイ・ホールディングス
株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、2021年に BCPを大幅に改定し、大規模災害や感染症拡大への対応を一層強化しました。「人命最優先で行動」「店舗の早期再開」「地域社会への貢献」の3つを基本理念に明確に掲げ、災害時にも生活インフラとしての役割を果たせる体制づくりを進めています。
店舗向けには「災害対応マニュアル」を、全社員向けには「ポケット版災害ガイド」を配布し、初動対応力の底上げを図っています。さらに、災害対策システム「セブンVIEW(災害可視化情報システム)」を独自に開発しています。このシステムにより、被災状況や店舗の稼働状況をリアルタイムで把握し、災害時の迅速な意思決定に役立てています。
全国の自治体とも災害協定を締結し、物資供給や避難所支援など、行政と連携した支援体制を構築しています。こうした取り組みにより、災害時でも地域とともに社会的責任を果たせる企業としての備えを強化しています。
参考:自然災害に対し、セブン‐イレブンが取り組んでいること|セブン‐イレブン
BCP対策の実効性を高めるポイント
BCP対策を実際に機能させるためには、押さえておくべき重要なポイントがあります。
経営層のコミットメント
BCP対策を進める際には、現場だけでなく、経営層の強い意志とリーダーシップが不可欠です。経営層が重要性を理解し、具体的な方針や目標を示すことで、組織全体が一体となって進めることができます。これによりBCP対策の継続的な改善や迅速な意思決定が可能になります。
BCP策定の進め方については、「BCPの策定はどのように進めるべき?流れに沿って手順を解説」で詳しく解説しています。
定期的な見直し
過去の災害経験を生かした改善や他社の事例、最新の被害想定を参考に、BCP対策も継続的な見直すことが重要です。実際の災害で電源や備蓄品の不足が判明した場合は、電力使用リストの作成や備蓄品の見直しを行うとよいでしょう。経験を次の対策に反映させることが実効性を高めることにつながります。
防災備蓄品や電源については、「企業における防災備蓄品‐必要量の目安と選定のポイントは?」「企業が蓄電池を導入するメリットとは?災害時以外の活用方法も紹介」で詳しく解説しています。
関係機関・地域との連携強化
災害時は自社だけでの対応に限界があるため、関係機関・地域との連携による共助体制の構築が重要です。同業他社との相互支援協定や地域防災ネットワークへの参加など、共助の仕組みを構築することで、単独では困難な事業継続も可能となります。
また、企業は地域住民が避難できる防災拠点としての機能も備えている場合があります。企業としての社会的責任を果たしながら地域全体のレジリエンス強化にも貢献するための備えも求められます。
共助については、「自助・共助・公助が企業の防災対策に重要な理由とは?取り組みの具体例も紹介」で詳しく解説しています。
事例を参考に自社に合ったBCP対策を検討しよう
BCP対策は、企業が予期せぬ災害や緊急事態に直面したときに、事業を守り社員や顧客の安全を確保するための大切な備えです。
今回紹介した事例のように、業種や企業規模を問わず多様な取り組みが実践されています。他社の事例を参考にしながら、自社の特性に合ったBCP対策に取り組み、定期的な見直しと訓練を重ねることが重要です。万が一のときに慌てず行動できるよう、平常時から備えを進めていきましょう。
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